×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




うちの船長は我儘な性格のわりに様々な面において人を頼ろうとしない。
弱みを見せたくないからなのかもしくはただ単に負けず嫌いなだけなのか。
心が覗けるわけではないので本当の理由なんてわかりはしないが、根が真面目で切り替えが下手な人だから一度でも他人に頼ってしまったら張りつめている何かが緩んでそのまま元に戻らなくなるかもしれないと危惧して無理をしているのではないかと思うと不安になる。
どれだけ強靭だろうと精神は磨耗するものだ。
緊張感を保つにしても緩まないまま張り詰め続けたそれがぷつりと切れてしまっては元も子もない。
余計なお世話だろうとは思いつつ船長に意識させずに上手いこと息抜きさせる方法はないかと悩んで悩んで、そうしておれは自分自身でストレス解消役の道化を演じることに決めた。


「やっほ〜ロ〜くゥん、遊びにきたぜ〜!」
「……また出やがったか」
「あっはははは!ローくんひでェ〜〜!」

みんなが寝静まった深夜、全開の笑顔で扉を開けたおれのことをまるで幽霊かなにかのように言って嫌そうに顔を顰めた船長をぎゅうぎゅうハグして髪を掻き撫ぜる。
酒を飲むと思考が鈍ったりはしないのに顔だけやたらと赤くなるのを利用して『馬鹿で陽気で頭からっぽで翌日には何も覚えていない』という船長が気を抜くのに都合のいいキャラを作り上げたわけだが、これが案外ウケがいい。
今だって嫌な顔をしてはいるが抵抗はしないし、なによりしばらく酒を飲まないでいると今さっき人を殺してきましたというような顔で寝酒に誘われるのだ。
そんなふうに求められるのは気に入られている何よりの証拠だろう。

「ローくん大人しいなァ。どうした〜?やなことでもあった?なぐさめたげよっか?なんかしてほしいことある?」
「うるせェ、黙ってろ」
「ええ〜むずかしい〜!」
「……黙って、このままじっとしてろ」
「あいあい!むずかしいけどがんばりま〜す!」

ケタケタ笑ってハグする力を強めると背中に回った船長の手が控えめにおれの服を掴んできた。
ハグやスキンシップはストレスの緩和につながると聞いたことがあるが大人しく腕の中に収まっている船長の反応からすると本当なのかもしれない。
船長を名前で呼ぶのも馬鹿なふりをするのも強引に抱きしめるのも、キャラじゃないことをするのは恥ずかしいけれど、こうしておれ一人が恥ずかしい思いをするだけで船長が喜んでくれるなら安いものである。



「…………たまには酔ってねェときにやれよ」
「え?なになに、なんかいった?」
「うるせェ黙れ」
「ひっでェ!」