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「いらねェっつってんだろ!いい加減にしろよ!」

ぱしん、と手を払われた衝撃で真っ赤なリボンつきの袋が乾いた音をたてて甲板に落ちた。
叩き落すまでするつもりはなかったのか、エースの口から「あ、」と声が漏れるのを聞きながら黙って袋を拾い上げる。
いつもならここで大仰に悲しんでみせて周りに茶化されながらどさくさのうちに袋を押し付けるくらいのことはするのだが、どうにも道化を演じる気になれない。
袋の中身はエースの隊長就任祝いにと町で選んだ朱色のバンダナ。
食べ物だと警戒されるとか高すぎるものは引かれるかもとか、悩んで悩んで悩みぬいた末に決めたプレゼントだった。
エースは食事の最中に眠りだして顔面から料理にダイブすることも少なくないのでハンカチ替わりにもでき他の奴とかぶっても邪魔にならないバンダナは無難かつ最善のプレゼントのはずで、しかしエースにとっては袋の中身がなんであろうとおれから贈られたものという時点でゴミと同じなのだろう。
とんだお笑い種である。
受け取ってもらえないプレゼントに価値などない。
その無価値なものに必死になっていた自分がひどく哀れで滑稽に思えた。

「な、なんだよ……お前がしつこいから……おれは、おれが悪いんじゃ」

おれの態度がいつもと違うことに戸惑っているらしいエースがなにやら言い訳じみたことをもごもごと呟いている。
実際のところそれは言い訳でもなんでもなくただの事実だ。
エースはなにも悪くない。
常日頃おれに対してのみ出会った当時と変わらない刺々しい態度のエースからすればこの結果は十分に予測できたこと。
それを理解したうえで執拗に迫った以上、おれが傷つくのはお門違いだろう。
けれど普段とは違い理由のある贈り物なのだからとほんの少しだけ期待していた部分もあって。
だから。
だから、これを受け取ってもらえないなら何をしたって無駄だという諦めが、ストンと胸におさまってしまった。
赤いリボンが潮風に吹かれて手の中でひらひらと揺れる。
おれはオヤジと闘ったあとボロボロな姿でそれでも一人踏ん張って牙を剥き続けるエースの安らげる場所になりたかった。
そしてそれはおれ以外の、オヤジやほかの家族によってすでに達成されている。
エースの幸せに、おれは必要ないのだ。

「今まで悪かったな、エース」
「…………え?」

笑顔をつくることは出来なかったけれど、もう関わらないという意味をこめた決別の言葉は淀みなく紡ぐことができた。
もしかしたらこれは丁度いいタイミングだったのかもしれない。
エースはこれから違う隊の隊長になるわけだし、そうなれば自然と距離は遠のくはずだ。
うちみたいな大所帯ならこちらから行動を起こさない限りそうそう話す機会もなくなるだろう。
鬱陶しい構いたがりがいなくなるなんてバンダナなんかより余程素晴らしいプレゼントじゃないか。

「隊長、がんばれよ」

おれの真意が伝わっていないのかイマイチ反応の鈍いエースに背を向けて歩き出す。
見上げた空は青くて遠い。
大切なものが欠けても、日常はすぐそこに迫っていた。