×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

「普通にキスできた……だと……?」
「お前はいったい何に驚いてんの」

そこまでムードを気にするタイプではないとはいえ初めてそういう雰囲気になってキスを交わしたあとのセリフにそれはちょっとどうなんだと胡乱な目を向ける。
互いに四十も半ばを過ぎた男なのだし甘いやりとりなど期待してはいないが、ここまであっけらかんとされてはおれの立つ瀬がない。

「いやァ、正直クザンとキスしたらアイスキャンディ食うときみたいに引っ付いてはなれなくなるんだろうと思ってたから」

覚悟してたぶん肩すかし感がすごいと笑うアルバに少し眉を寄せ、唾液で濡れた唇を拭う。
いくらロギアだといったって能力を使っていない場合の体温は普通の人間と同程度だ。
大将にまでなって能力を制御できないわけもなく激情で暴走させるほど若くもない。
だからアルバとキスしたって大丈夫で、アルバの軽口には「そんなに凍りたいなら試してみるか」と冗談で返せばよくて。
そのはずだったのに、どうしてこうなってしまったのか。

「キスのたびに氷漬けになったらキツいよなァ」
「……キツいで済む話じゃないだろ。舌やら喉が凍ったらそれこそ生死に関わる問題なんだぞ」

らしくない強い言い方にアルバがきょとりと目を瞬かせる。
羞恥心やプライドのためには誤魔化してしまいたい事実だが互いの今後のためにも隠すことはできない。
苦々しい思いでポケットの中に潜ませていたものを取り出し、アルバに差し出した。

「なにそれ、石?……まさか、」
「……さっき、勝手に能力が発動しかけた」

マジで、と驚きの声をあげるアルバに黙って頷く。
掌に乗せているだけなのに全身から力が奪われるそれは紛れもなく海桜石の欠片。
能力者であれば誰もが厭うこの石がなければ先ほどのキスでアルバは最悪死んでいたかもしれないのだ。
今まさに殺されかけたと知り呆然とした様子でこちらを見るアルバは何を考え、何を言おうとしているのか。
想像するのが怖い。
もし怯えられたら、嫌われてしまったら、おれはどうしていいかわからない。
たった数秒の沈黙に打ちのめされて悪い方にばかり向く思考のなかアルバが口を開くのを、ただじっと見つめる。



「――え、じゃあキスの途中でくたっとしたのっておれのテクがすごかったからじゃねェのかよ!」


身構えていた力が一気に抜けて思わずその場で膝をつきそうになった。


「いまの話の流れでなんでそんなとこに食いついてんだ!?」
「むしろそれ以外に食いつくところなんて……いや、お前の身体があったな。食いついていいか?」
「いいわけねェだろ馬鹿!」

両手をわきわきさせながらにじり寄ってくるアルバを一発殴って黙らせる。
いいわけがない。
ないけれど、よかった。
いつも通りのくだらないやりとりができたことにホッとしつつ海楼石とは違う妙な脱力感に息を吐く。
アルバの感性がズレているのは友人として長年そばにいたのだから百も承知のはずなのに、関係が変わってからというもの以前に増して振り回されてばかりだ。
嫌われたらどうしようと緊張したりキス程度で能力を暴走させそうになったり、おれはどうかしてるんじゃないだろうか。

「ったく……自分で自分が信じられねェ」
「ははは、そう落ち込むなよ。おれは嬉しいんだからさ」
「は?」
「だって、それだけおれのことが好きってことだろ?」
「……はァ!?」

相変わらず何を気にするでもなく平然と抱きしめてくるアルバにキスした時と同じ脳が痺れるような感覚が湧き、慌てて海楼石を握る手に力をこめた。
アルバのことは、そりゃ好きだ。
好きじゃなきゃ付き合うわけがないし、キスなんてもってのほかである。
しかしアルバの言い方だとそれは、まるでおれがアルバのこと好きで好きでたまらないみたいな、いや、おれだってまさかアルバとのキスであそこまでドキドキするなんて予想外だったわけでつまり自分で認識してる以上にアルバのこと好きなんだろうけどでもだからってそんな。

「告白はおれからだったし付き合いだしても友達の延長みたいなノリだからイマイチ実感湧かなかったけど、クザンもちゃんとおれに惚れてくれてんだなァ」
「っだとしても、下手すりゃ死んでたかもしれねェのに嬉しいとか……」

心底嬉しそうな声に耐え切れず遮るように口にしたものの、アルバの言葉が生命を脅かした自分に対する救済だと気づいてもごもごと言葉を濁す。
アルバが許してくれたのだからおれも素直に「ありがとう」と礼を言ってこの件は終わりにするべきなのかもしれない。
けれどアルバを殺しかけたということをそう簡単に水に流してしまっていいとは思えなかった。
許されたい、けれど許されてはいけない。
複雑な葛藤に唇を引き結ぶとそれを察したらしいアルバがそっと体を離して真っ直ぐにおれの目を見据えた。

「さっき言ったろ、覚悟してたって」

氷漬けになってもかまわないからクザンとキスがしたかったんだ。
そう言って再度唇を寄せてきたアルバに、これはいけないと一層強く海楼石を握る。
心臓の音がうるさい。
頭がくらくらする。

こんなに幸せな気持ちにさせて、本当に氷漬けになったら自業自得だぞバカヤロウ。