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船長に想いを告げたあの日から一ヵ月がたった。
ちなみに島を離れるまでという条件で切り離された右腕はなんだかんだと理由をつけて船長が手元に置く期間を引きのばしたせいで一週間前に返ってきたばかりだ。
お気に入りのぬいぐるみを手放そうとしない子供みたく四六時中右腕を持ち歩いてくれていただけに船長の体温を感じないことを若干寂しく感じる今日この頃。
交戦した海賊団がお宝をたんまり溜めこんでいたためみんなご機嫌だし航海も順調で悪いことはひとつもないのだが、なんか、船長の様子がおかしい。
隈が一段と濃くなって日に日に苛々が増しているうえ、朝いきなり部屋に入ってきたと思ったら挨拶する間もなく踵を返して船長室に戻りそのまま寝なおしたりする。
夜眠れていないのかと尋ねてみても大丈夫の一点張りで埒があかない。
全然大丈夫そうに見えないから聞いてるっていうのに。
明らかに何かかくしているとは思うものの、しつこく尋ねたら「少しは自分で考えろ」と舌打ちをくらってしまいその話題に触れることができなくなってしまった。
好きな人にさも不愉快げに睨まれて傷つかないほどおれのメンタルは強くないのだ。
本当は自分で考えると前の二の舞になりそうだから出来る限り直接聞きたかったんだが船長が望むならしかたあるまいと頭を捻る。
船長が情緒不安定になる原因……自分で考えろってセリフからするとおれ、なのか?
そういえば初めて部屋に飛び込んできたのも腕を返してもらった次の朝だった。
もしかしたら両腕揃って以来べたべたしすぎたせいでストレスが溜まってるとか。
二人っきりのとき頭撫でたりしたら幸せそうにしてたから大丈夫だと思ったんだけど元々あんまり人と接触するの好きじゃなさそうだしなァ。
いくらお互い好意を持っていたとしても距離感が一緒だとは限らない。
おれを傷つけないよう正面切ってウザいとは言わず態度で示してくれてたのならこの一週間ものすごく申し訳ないことをしていた。
鬱陶しがられて愛想を尽かされたくないし、これからはもう少し自重しよう。

そんな流れがあって船長を気遣うつもりで今日一日スキンシップを減らしてみましたごめんなさいそんな目で見ないでペンギンおれの繊細なハートが砕け散って死ぬ。

「お前……ほんっと……」
「やめて、罵るなら勢いよく罵って。その本気の呆れかた心に突き刺さるからやめて」

どうやらスキンシップを減らしてみた結果、船長がおれから見えないところで最近あまりしなくなったはずの胸に手をやってぎゅーっとする仕草をとっていたらしい。
その仕草で異常を察したらしいペンギンから話を聞かされ、おれはようやく自分の対応が不正解だったことを知った。
自分と船長の立場逆にして考えてみろよというペンギンの言葉に胸が痛む。
当たり前のように行われていた行為がある日突然なくなったとしたら、おれなら、嫌われたと思って悲しくなるに決まっているからだ。

「船長、死にそうな顔してたんだぞ」
「……はい」
「一日中お前のことばっかり見てた」
「……はい」
「そんなときお前はシャチと談笑してハグしてあまつさえ『シャチ大好き』って叫んだわけだが」
「………………ごめんなさい」

次の島ででかい買い物するつもりだと話したらシャチが例のお宝の取り分からベリーを貸してくれるって言うから興奮してつい、というのはなんの言い訳にもならないだろう。
船長はそんなこと知らない。
悪いのは完全におれだ。

「おれに謝ってないでさっさと船長のとこ行ってこい。それと、これからは悩むことがあったら一人で考えないで相談しろよ……仲間だろ」

びっくりするほど男前なペンギンに感謝のキス、と思ったがやめた。
特別なのは船長だけなんだから勘違いを生む行動はこれを機に慎むことにしよう。
パン、と頬を叩いて気合いをいれベッドから立ち上がる。

「じゃあ行ってくるわ」
「おう、もし船長が意地張ったら黙って十秒くらい至近距離で見つめてやれ。多分それでなんとかなる」

ひらひらと手を振るペンギンのアドバイスを背に廊下へ足を踏み出しながらさっそく不安が過った。
至近距離で十秒とか、おれの理性は持つだろうか。