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「人間の一生の鼓動回数は決まっていて、およそ20億回で寿命を迎えるそうだ」
「そうなの?」
「ああ……つまりおれはいまアルバのせいで寿命が縮んでる」

アルバの右手にしっかりと繋ぎとめられた自身の左手見つめながら真剣な声でそう話して、頭を抱えたくなった。
何言ってるんだおれは。
航路の相談のため船長室を訪れたベポに愧死しかねないシーンを目撃されておよそ十分、ようやく落ち着いたと思ったが未だ混乱は続いているらしい。
いや、そもそも落ちついたなんて発想自体が混乱している証拠か。
普通に考えて昨夜から今朝にかけての急展開で冷静になれるはずがないのだから。
まだ全てを信じきることができず腕を渡せと理不尽な命令をしたおれに蕩けるような笑顔を向けてきたアルバを思い出し顔が熱くなる。
これまで笑わなかったのはなんだったんだと詰りたくなるほど緩みっぱなしだったアルバの頬。
聞いたこともない優しい声で甘ったるい言葉を紡ぐ唇。
回想なんてするもんじゃない。
そろそろ心臓が痛すぎて死にそうだ。

「……アルバに殺される」
「それ、アルバにはちゃんとドキドキするって言わないと伝わらないよ」
「言えるわけねェだろ」

アルバが聞いたら喜ぶのにと不満がるベポに黙って首を振る。
アルバに望みを尋ねられたときもそうだったが、拒絶される可能性がゼロでない以上素直な気持ちを曝け出すことほど恐ろしいものはない。
それにそんなこと伝えてなんになるっていうんだ。
万が一「おれもですよ」なんてはにかまれでもしたら本気で生死に関わるぞ。

「でもよかったねキャプテン、ずっと好きだったんだもんね」
「……おう」

我がことのように嬉しがるベポのおかげで悶えそうになる程の羞恥がほんの少し緩和された。
部屋に来たのがベポでよかったと思う。
こちらから指を絡めておいて反応が返ってきたら取り乱す姿など、見られたのが他のクルーだったら物理的に口を封じているところだ。
今日はもういいからゆっくり休んで、と言って部屋を退出したベポを見送りソファに腰掛ける。
本当はベッドに横になりたいけれど、いまが幸せすぎて眠ると夢になってしまいそうなのが怖かった。
眠るのならばアルバの傍がいい。
時折労わるように親指を動かすアルバの手を持ち上げ、早く戻って来いと念じながらバレないようひっそりと爪に口づける行為に没頭する。
何十回目かのキスの最中突然動いた指に唇を摘ままれ、直後帰ってきたアルバに「お返し」をされるのはそう遠くない未来の話。
おれは間違いなく、緩やかに殺されているのだ。