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称讃や労わりの言葉とはつまり無形の報酬である。
欲しいときに欲しい言葉を与えられるだけで人は相手に信頼や尊敬を覚えるようになる。
金や宝石よりも価値があるそれの使い方をドフラミンゴは本能からよく理解していた。
部下の望むモノを与え、忠誠を誓わせ自身の思い通りに操る。
初めてアルバにその言葉をかけたときだってそれが目的のはずだった。
それだけのために吐いた、ただの嘘だったはずなのに。
いつからだろう。
中身のない言葉が確かな意味を持ち始めて以来、ドフラミンゴはずっと苦しみつづけている。

「アルバ」
「はい、若様」
「……アルバ」
「はい」

正面に立つアルバに向け口を開くも与えるべき言葉は喉に張り付いて出てこない。
時間がたてばたつほど穏やかな眼差しに責められているような気分になってしまう。
言わなければ。
言いたくない。
言え。
嫌だ。
嫌だ嫌だ、いやだ。

「若様……ドフィ」

意固地になった子供を優しく促すようにアルバがこちらを覗き込む。
許可しているにも関わらず普段は一切呼ばれない愛称に、ひくりと喉が動いた。

「……アルバ」
「はい」
「アルバ、」

あいしてる。

アルバの瞳を真っ直ぐに見てしまえば、意識するまでもなくひりついた舌を転げるように言葉が飛び出てきた。
単体ではなんの意味もなさない五文字の記号の羅列がまるで罪を告解するかのような響きを帯びたことに、サングラスの奥で睫毛が震える。

「ありがとう、若様」

ドフラミンゴに愛の言葉を求めるアルバはしかし、それに決して応えない。
ただ「ありがとう」と言って甘やかに微笑むだけだ。

「アルバ、あいしてる」
「うん」
「あいしてるんだ」

あいしてるあいしてると決壊したように繰り返すたび、アルバの笑みは深くなる。
縋りついても泣き喚いても、欲しい言葉は手に入らない。