今日はなかなかハードな一日だった。 春島付近で気候もいいし、このまま何事もなければよく眠れそうだ。 寝酒を一杯呷ってふわふわした足取りで廊下を歩く。 自室へ戻ると丁度部屋から出てきたペンギンと肩がぶつかった。 「おっと、わりィ……あれ?」 そのまま通り過ぎようとしたペンギンが立ち止まっておれの全身を眺める。 間違い探しの手助けをするように片手をあげると、とっさとはいえ避けきれなかった原因に気付いたらしくおれのあげた腕を指差した。 本来この状態をおかしいと思う方がおかしいんだけどな。 慣れって怖い。 「お前、なんで右腕あるんだよ」 「おれもわからねェ。けど今日は左腕寄こせってさ」 なにかまたおれが気付けないだけで不安や不満があるのかもと思い尋ねてみたけれどどうもそういうわけではないらしい。 おれとしては船長が安心して眠れるならどっちでもいいが、右腕がない状態が長かったせいで身体のバランスが取り辛いのが問題だ。 ペンギンもペンギンで「鏡見てるみたいで落ちつかねェな」とひとりごちている。 暫く互いに首をひねっていたものの如何せん夜も遅い。 二人してほぼ同時に「まあいいか」と疑問を解くのに見切りをつけ、ペンギンはトイレに、おれはベッドに足を進めた。 もそもそとブランケットに潜り込み、瞼を閉じるとすぐさま睡魔が襲ってくる。 沈んでいく意識の中で見えない左手に違和感をおぼえ、もう少しだけ起きるためにあくびを一つ。 左手の小指。 時折当たる船長の手。 血流が軽く阻害される感覚。 ああ、これは。 「船長、またかわいいことしてんなァ……」 わざわざ隠れてやらなくったって言ってくれればおれも船長の小指に結んであげるのに。 言えないんだろうなァ。 なんというか、そういうかわいい行動を一生懸命隠そうとする人だから。 隠そうとしてるわりにあんまり隠せてないあたりが物凄くかわいいから黙ってるけど、もう少しくらいおれ本体をかまってくれてもいいと思う。 明日は腕だけじゃなくてまるごと一人をベッドに迎えるよう勧めてみようか。 小指に落ちた唇の感触に笑みを零しながら、おれは穏やかな眠りについた。 |