「わりィシャチ、指輪買い戻しにいくから今日買い出し付き合うの無理だわ。次の島ではおれが全部荷物持つから勘弁な」 「……おう、まあ、いいんだけど」 いいんだけど、なんだ。 歯切れの悪いシャチに眉根を寄せて隣に腰を下ろす。 昨日の夜から立て続けに泣いたせいで瞼が腫れてしまった船長を部屋に残し、おれ一人で詳細を伏せつつ結果報告したその瞬間からシャチのテンションがすっごく低い。 上手くいったって言ってるんだから喜んでくれりゃいいのに。 どうしたんだよと身体を寄せるとすごい勢いでため息をつかれた。 傷つくなァ。 「マジでどうした?ハッキリ言わないとわかんねェぞおれ鈍感だから」 「自分の性格ちゃんと理解したのは褒めてやるけど開き直るな!」 キャスケットの上から頭を抱え「あー」だの「うー」だの唸っていたシャチがバッと顔をあげて怒鳴りつけてきた。 机をたたいた振動でグラスに入った氷がカチャンとずれ落ちる。 こんな時間から酒かとからかうと何が起こるかわからないのに酒なんか飲むわけねェだろうがと真剣な表情で返されて思わず押し黙った。 考えていた以上に心配をかけていたらしい。 「おれはなァ!お前の説明がぶつ切り過ぎて本当にいい結果に落ちついたって思っていいのか迷ってんだよ!ぬか喜びは嫌だからな!」 上手くいったって言うわりには右腕ないままだし!船長は部屋から出てこねェし!どうなってんだ! ここに至るまでの落ち込み具合が嘘のようにギャーギャーと問い詰めてくるシャチを安心させるべく、ニヤリと笑って右肩を動かす。 「腕は一回返してもらったんだけど船長が『島から離れるまではおれが持ってる』っていうから渡してきたんだ。おれが本当に船から降りないか心配らしい」 ほんと信用ないよなァ、と笑うおれを見てシャチがぽかんと口を開けたまま固まった。 間抜け面だ。 「お前……昨日同じこと言ったときは死にそうなツラしてたくせに……」 「だっていまおれの右腕どうなってると思う?恋人繋ぎされてんだぜ?しかもめちゃくちゃ恐る恐る。あ、握り返したらビクッてした」 ギャアと叫び声をあげて二の腕を摩り始めたシャチに実況を続けようとすると思い切り頭を殴られた。 おれは当人だから嬉しいばかりだが、普段尊敬と憧れを持って接している相手の初々しい様というのは精神に対するダメージが半端ないだろう。 殴られた仕返しにひょいとキャスケットを取り上げ耳元で内緒話のように囁きかける。 「おれの主観が混じるから大体いまみたいな感じの内容になるけど……詳細、聞きたいか?」 「…………聞きたくねェ」 おめでとう。 ありがとう。 大切にするんだぞ、なんて、言われるまでもない。 |