「お、ローあれ。あの花知ってるか?」 アルバが指差した先に俯いたように咲いている小さな白い花を見つけローは目を眇めた。 必要を感じないことにはとことん興味がわかない性質なので、植物に関してはかなりメジャーなものか病気や薬、毒の原料になるものしか知識にない。 当然こんな辺鄙な場所に自生している花など知る由もないのだが「知らない」と素直に口に出すのは癪である。 どうでもいいことに見栄を張りたくなるのは普段「ローは色んな事知っててかっけーなァ」と馬鹿面で手放しに褒めてくるアルバのせいだ。 惚れた相手に格好悪いところを見せたくないと思うのは仕方のないことだろう。 「あの花なァ、花言葉がすっげーんだぜ」 「花言葉?」 さてどう返答するかと思案するうちにアルバが続けた意外な言葉にローは訝しげな声をあげた。 面白い名前だとか香りがキツイだとかそういう表面的な話題だと思っていたのだ。 アルバの口から『花言葉』など似合わないにもほどがある。 「普通にあるだけならいい意味なんだけどよ、贈ると怖くなるんだわ」 「……なんでそんなこと知ってんだお前」 眉を寄せるローに「おれの姉貴が別れた彼氏に贈りつけてて戦慄した」とアルバが笑う。 普通のときと贈った場合の両方の意味を聞いてローも戦慄した。 女は怖い。 「せっかくだからとってきたらどうだ。持ってるだけなら悪くねェし」 「そうだな……よし、アルバ。とってこい」 「え、別にいいけど……贈ったら意味変わっちまうからプレゼントはできねェぞ?」 「お前が持ってりゃいいだろ」 しゃがみこんで素手で土を掘り返しながらこちらを見上げるアルバに、ローは不敵な笑みを返した。 「どうせてめェ自身おれのもんなんだ。だからその花は、お前が持ってろ」 その言葉を聞いて目を見開いたアルバもまた、ニヤリと唇の端を持ち上げて笑みを浮かべる。 いつもの馬鹿っぽさがなくなる、少し人の悪そうな大人の笑み。 ローはアルバのこの表情が苦手だった。 どぎまぎしてうまく頭が回らなくなるのだ。 「ローはやっぱかっけーなァ……ま、耳が赤いのは見なかったことにしてやんよ」 「……これは寒いからだ」 「はいはい。寒いなら手ェつなぐか?」 土で汚れてんだろうがと顔を顰めながら、差し出した手を握る。 逆側の手に大切に乗せられた白い花がくすぐったくてローは白い帽子を目深に被りなおし、花と同じように俯いた。 (スノードロップ:花言葉『逆境のなかの希望』、贈ると転じて『あなたの死を望む』) |