「おっクザンじゃん!なに、またさぼってんの?」 軽薄そうな声が意識を揺さぶって浅い眠りを覚醒に導く。 アイマスクをずらして相手の姿を確認し、すぐに見なければよかったと後悔した。 口紅のように真っ赤な花束を抱えた男はどうせこれから適当な女のもとへ行って使い古された臭いセリフを囁くのだろう。 いつものこととはいえ胸糞悪い。 「なんだよそんな顔してー!そんなにおれに会いたくなかったわけェ?」 「わかってんならわざわざ聞きなさんな」 起きあがって服についた草を払う。 態とらしく唇を尖らせるアルバに近づき「愛の花もそんなに多くちゃ陳腐なだけだな」と皮肉ると「遊びだからそれでいーんだよ」なんていかにも下衆っぽい言葉が返ってきた。 いや、ぽいんじゃないな。 下衆なんだ、こいつは。 起きざまのすっきりしない頭では苛々を抑えることができなくてついその花束に手を伸ばす。 一本だけ抜き取った棘だらけのそれをパキンと氷漬けにして投げ返すとアルバが小さく目を見開いて、笑った。 「クザンってば実は情熱的なのな」 「はァ?」 意味が分からなくて思いきり顔を歪めるとアルバが「だってさァ」と笑みを深めた。 「大量で陳腐な『愛の花』を一本だけ凍らせておれに寄こすってことはさァ、『私の凍りついた愛をあなたの手で溶かして』ってことなんじゃねェの?」 キスでもしてやろうかお姫様。 耳元でそう囁かれた瞬間氷の刃でアルバを薙ぎ払うと血の代わりに赤い花弁が宙を舞った。 本気だったのに避けられたということは、読まれていたということだ。 本当に胸糞悪い! 「そう怒んなよ、クザンならいつでも歓迎してやるぜェ?」 花束の残骸を打ち捨て品のない笑いを残して去っていったアルバの背をわなわなと震えながら見送る。 溶かす?キス?歓迎?ふざけやがってクソったれ。 「誰のせいで凍りついてるかも知らねェくせに……!」 赤くなった頬をシャツの裾で擦り足元の花を踏みにじる。 あの男の安っぽい愛もおれの馬鹿げた気持ちも全部全部無くなってしまえばいいんだ。 (赤薔薇:花言葉『愛情』、一本の薔薇『あなたしかいない』) |