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「#幼馴染」のBL小説を読む
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寒いと思ったら青キジを見ろ。
いつ誰が言い出したのかはわからないこの言葉はいまやクザンと仕事を共にする海兵のあいだで知らぬものはいないほどの共通認識事項として広まっていた。
要は氷のロギアであるクザンの機嫌が悪くなるとめちゃくちゃ寒くなるからあまりにひどいときは各自機嫌をとってみるなり諦めるなりするようにという身も蓋もない格言だ。
類義語は暑いと思ったら赤犬を見ろ。
二人ともいい歳したおっさんなんだから、自分の機嫌くらい自分でなんとかしてほしいものである。

「クザン」
「なに」
「クザンー」
「だからなによ」
「好きだぞー」
「……はあ?」

軽い調子で言った瞬間前を歩いていたクザンが振り返って実に嫌そうに顔を顰め、少し間を開けてから鬱陶しそうな声が返ってくる。
気温は先ほどまでと特に変わらない。
どうやら本日のマリンフォードの寒さは純粋に気候のせいでありクザンのヒエヒエ疑惑は冤罪だったようだ。

「なんなの、いきなり」
「んー、好きだと思ったから言ってみただけ」

じとりと睨みつけてくるクザンに「好きだぞ」と繰り返すと黙ってため息をつき追い払うように手を振られ、それから数秒して視界に白いものがちらついた。
しまった、からかいすぎたか。

これはクザンと仕事を共にする海兵にもあまり知られていないことだが、クザンの機嫌は悪いときだけでなく良くなりすぎた場合も気候に影響を与えてしまう。
首筋を隠すように当てられた手の隙間から見える肌の色に素直じゃないなァと白い息を吐き、おれは寒空の下我が身を抱えて震えているであろう海兵たちへのお詫びの気持ちと多少の惚気を込めて氷人間の手をとった。