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今年になって結婚した部下が数日前から落ち着かない様子でそわそわしていた。
どうやら結婚後初めての妻の誕生日が近いらしくあまりの甘ったるいそわそわっぷりにこれは何としてでも帰らせてやらねばという空気がうまれ、そして今日周囲の計らいでめでたく早々に帰宅できる運びとなった。
残業なしで帰れるほど平和な日でもなかったがいつ何が起きるかわからない職業なのだからたまにはこういうことがあってもいいだろうという善意が集まった結果だ。
事情を知るや赤べこのように何度も頭を下げてにこにこ顔で自宅へとすっとんでいった部下を見て微笑ましいなァとこちらまで笑顔になり、次いで自身の恋人を横目で見てはあとため息をつく。
何を隠そう今日はおれの恋人であるボルサリーノの誕生日でもあるのだが普段から淡々としているところがあるボルサリーノは記念日になってもまったくはしゃいだり喜んだりしないのだ。
おれだって昔はあの部下のように頑張って休みを合わせようとしたり豪華な料理を用意したりして全力で祝っていたが、しかし何をやっても喜んでもらえないとなると祝い甲斐もなく、今では形ばかりのプレゼントと言葉を送るだけになってしまった。
今年なんて朝から常に周囲に人がいて二人きりになる時間がなかったせいでまだそれすらでいていない。
まあ誕生日に何もできなかったとしてもボルサリーノにとってはなんでもないことのかもしれないが。

「……喜んでくれるならおれだって頑張るし、攫ってでも二人きりになるのになァ」
「なんの話だァ〜い?」
「お前は祝い甲斐がないって話」

ぼそりと呟いた言葉に反応したボルサリーノに肩をすくめて軽い嫌味を言う。
と、きょとんとした顔で数秒目を瞬かせたあと無言のまま鳩尾を殴られた。
なんでだ。