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「失礼します」

そう告げて尾びれを掴み厚い胸板を押してベッドにひっくり返すと、大した抵抗もなくころりと転がされたフカボシ王子は「今の状況がまったくこれっぽっちも理解できていません」といったふうな表情でこちらを見上げてきた。
尊い存在である自身に対して暴挙をはたらいた極悪人に対する警戒心は砂粒ほども感じられず、普段凛々しい顔がいっそあどけないくらいに緩んで金の瞳がぱちぱちと瞬きを繰り返す。
サメ肌の部分と違いなめらかな触り心地の無防備な腹部を撫でてみてもびくりと小さく跳ねるだけで動こうとしないところをみると、やはりこの技は普通のサメだけでなくサメの人魚であるフカボシ王子にも通用してしまうらしい。

「……アルバ?」
「はい」
「はいじゃない。これは……その、どういう意図があっての行為だ?」

困惑したように眉を寄せるフカボシ王子の頬が赤くなっているのは恥ずかしさのせいだろう。
腹を撫でさすられくすぐったそうに震えているのにただ添えただけの手すら払いのけられないとはとんでもない。
サメの習性を聞いたときまさかと思ったが確認しておいて正解だったようだ。

「サメは仰向けにされると麻痺して動けなくなると聞きまして、もし王子もそうであるなら程度によって何か対策をとるべきかと」
「…………は?」
「しかし思っていたより厄介ですね、これは」

護衛を増やすのは簡単だがそれだけでは根本的な解決にはならない。
どうにかしてこの弱点自体を克服できないものかと腹に置いた手を惰性でゆるゆる動かしながら考えていると、数分後麻痺状態から復活したらしいフカボシ王子が真っ赤な顔で「大丈夫だからこのことは忘れるように」と命じてきた。
おれにとってフカボシ王子の命令は絶対。
だがしかし、好きな人が悪漢に不意打ちをくらってロクに抵抗もできずに傷つけられてしまう可能性がある以上この問題を捨て置くことなどできるはずもない。
王子より弱いおれにできることなどほんの僅かしかないのだから、その数少ないできることはなんだってしておきたいのである。

「そうだ、思いっきりくすぐれば」
「だめに決まっているだろう!いいから忘れろ!」

怒るフカボシ王子には申し訳ないがあれほどの無抵抗ぶりを見た後では荒療治も視野に入れねばなるまい。
とりあえず耐性をつけるためにも、これからちょくちょく裏返していこうと思う。