ぐいと口元を覆うマスクをずり下げ「やらねェのか」と言い放ったグラディウスの落ち着いた様子に思わずあれ?と首を傾げた。 別にやらないわけではない。 というかわざわざ邪魔が入らないよう他のファミリーのスケジュールを確認したうえで恋人の部屋を訪ねて二人してしっかりシャワーまで浴びている状態でやらないという選択肢が存在するわけがない。 ただ少し想像と違ったというか、グラディウスは絶対に致すギリギリまで恥ずかしがって抵抗するだろうと思っていたから驚いてしまっただけだ。 最悪ことに及んでいる最中でも羞恥による強制中断があり得ると予想してゆっくり優しく雰囲気に慣らしていこうと覚悟していたのに。 「ええと……もしかしてグラディウス、初めてじゃない?」 「……だったらなんだ」 「なんだってことはないけど。なに、相手、ファミリーの人間?」 「いや、」 短く答えて、歯切れ悪そうに視線を彷徨わせるグラディウス。 おれにだって数えるのも面倒なほどの経験があるし過去の行為を非難することなどできるはずもないのだが、なんだかなァというのが正直なところだ。 処女信仰というほど大層な貞操観念は持ち合わせていないけれど、本気の相手に他人の手垢がついているのを嬉しく思うほど特殊な性癖もしていない。 「ファミリーの人間じゃないならさァ、グラディウスに触ったやつのこと全員教えてよ。グラディウス自身についてはおれが他のやつのこと忘れるくらい頑張るからそれでいーよ」 ちょっと重いかな、と思ったがまあ別にかまわないだろう。 後腐れのない一夜の火遊び相手ならともかくグラディウスとは後腐れる気満々だし。 「な、貴様なにを考えて」 「言いたくない?ヤった相手がどうなるか心配とか?無理強いするつもりはないし言いたくないなら言わなくていーよ。そのうち自然と言いたくなるようになるから」 相手がファミリーの連中なら問題だがそれ以外ならどうとでもなる。 にこりと微笑みベッドに押し倒してキスをすると混乱で冷静さを欠いたグラディウスがおぼこのように硬直したのがわかった。 この感じだとそこまで慣れてるわけじゃなさそうだな。 処理が早く終わりそうで、よかったよかった。 |