キャプテンのヒゲが好きだ。 長くもなく短くもなく、硬さもいい感じなのでいつまでも飽きずに触っていられる。 恋人になって気安く顔に触れることを許されてからというもの調子に乗って触りまくりキスやセックスの最中にも手癖でさりさりと撫で続けていたらいい加減にしろとキレられたが「女の代わりとかじゃなくて船長が好きだって証拠ですよ」と言い訳したら簡単に流されてくれたのでキャプテンはおれに易しい。 優しいじゃなくて易しい。 イージーである。 惚れた弱みというやつなんだろうがおれが悪いやつだったらカモにされているところだ。 ヒゲを触られるだけでよかったと心の底から感謝していただきたい。 そんなことを考えながら膝の間に座っておれを背もたれがわりに本を読んでいるキャプテンの顎を例のごとくさりさりしているといつもなら読書の最中は微動だにしないキャプテンがもぞりもぞりと身じろぎはじめた。 集中できていないんだろうか。 さすがに本気で嫌だったら鬱陶しいとはっきり言ってくるはずだしおれが触っていることに問題はないと思うのだが。 手を払うでも何か言うでもなくただもぞもぞしているキャプテンの意図が気になり少し注意して見てみるとピアスで飾られた耳が仄かに赤くなっているのがわかった。 呼吸もわずかではあるが荒くなっている。 「……もしかしてここ触るの、スイッチになっちゃいました?」 耳元で囁くと膝の間に収まっている身体がぴくりと跳ねた。 大当たりということだろう。 どうやらセックス中に触りすぎたせいで変な癖をつけてしまったらしい。 「えっちします?」 「…………まだ読み終わってねェ」 「じゃあ読み終わったあとで」 返事はないがそれを拒否の意に受け取るほど野暮ではない。 用事は全部済ませてあるし、時間ならいくらでもある。 心持ちページをめくる手を速めたキャプテンが読書を終えるまで、相変わらず触り心地のいいヒゲを触りながらゆっくりと待つとしよう。 |