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麦わらの一味には一人、男にしては少食なクルーがいる。
いや、少食というより一度に食べられる量が少ないと言ったほうが正しいか。
飯時に詰め込むのはきついが眠る前になると腹が減るから夜食に少し残しておいてくれないかと打診され、軽くでいいなら残り物じゃなく温かいものを作ってやると約束したのがきっかけで他の仲間が眠りについてから二人だけで話すことが多くなった。
新しく作ると言ったのはその当時まだキッチンに鍵付きの冷蔵庫が設置されておらず残しておいたぶんがルフィに腹に収まってしまう可能性が非常に高かったためであり、また寝る直前に食べるなら夕食の残りより消化のいいもののほうがいいだろうと判断したためでもあった。
他意なく始まった二人の時間だが日々積み重ねていくうちに、思いのほか相性が良かったせいもあってかサンジの中でーー勘違いでなければアルバのなかでもーー少しずつ感情の変化が現れはじめ、お互い何をいうでもないがなんとなく、そういう雰囲気になることが増えていって。
どうして目に見えないものをそんなふうに信じ込めてしまったのかはわからないがきっと自分たちは同じ気持ちなのだと、言葉にして名前を決めずともずっとこの心地いい関係が続くのだと、そう思ってしまっていた。
それが幻想だと気づいたのは今回上陸した島の料理屋で食事をしたアルバが一口食べて目を見開き、味わって飲み込んで見たことがないような嬉しそうな顔で「母さんの味にそっくりだ」と笑った瞬間だ。
アルバはサンジの料理を最高にうまいと褒めてくれる。
けれど例えば、その料理屋で修行をしているのだという娘さんと縁があり彼女が船に乗ることになったとして、はたしてアルバは今と同じようにサンジに夜食を強請ってくるだろうか。
答えは否だ。
例え世界一のコックが手間暇をかけて作った料理であろうとも味覚の原初である母の味に勝るものはない。
きっと二人の時間が始まったときと同じように、ほんの少しのきっかけさえあればサンジの料理は必要とされなくなってしまうだろう。
母親の故郷と同じ島の出身なのだという娘との会話に花を咲かせて船に戻ってこなかったアルバのために用意した夜食は焦げてしまったうえになんだか少しパサついていて、サンジは最高にうまいといってもらえた料理すら作れなかった自分の手をぼんやりと見つめたまま月明かりに照らされたキッチンに立ち尽くしていた。