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「#幼馴染」のBL小説を読む
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手の届かないものに本気になるのって不毛の極みじゃないかと思う。
だってそうだろう?
遊びのうちは趣味に時間を割くようなものだからいいとして、報われない恋に時間と心を使って何になる。
いずれどこぞのお嬢様と結婚して世継ぎを作らなければならない立ち場の王子相手に抜け出せないほどハマるだなんて真っ平御免。
なんて自分から手を出しておいて泥沼の予感を嗅ぎ取った瞬間さっさと身を引いたおれのことをフカボシ王子はどう思っているのか。
私的なことで話さなくなって何年も経っているおかげでその心の内は知りようもないが、遠巻きに見ている限りは完璧な王子様として立派に成長を遂げているようだし火遊びの相手のおれのことなんかとっくに忘れているのかもしれない。
さっさと離れて正解だったんじゃないかな、たぶん。
そんな希薄な関係になっておきながらどうして今更そんなことを考えているのかというと、気分転換にぶらついていた城の中庭に件の王子様が落ちていたからだ。
海藻樹に寄りかかって静かに眠っているフカボシ王子は街でメダカの子供たちにでも遊ばれたのか、豊かな髪を好き勝手に編まれては可愛らしいリボンで飾られていた。
こんな姿のままこんな場所で昼寝だなんて、王子にしては珍しい。

「王子、フカボシ王子。城内とはいえ危険です。お休みになるならお部屋へ」

声をかけ、触れていいものか少し迷って肩を揺すり、それでもなんの反応も示さない王子にどうしたものかと息を吐いた。
フカボシ王子の鮫肌の威力は火遊びの最中嫌という程思い知らされたので緊急時というわけでもないいま担いで運ぼうという気には到底なれない。
しかたなく起きないならとりあえず髪だけでも直しておこうかとリボンをほどき、下手くそな三つ編みやよくわからない結び方をされた青い髪を手櫛で優しくときほぐしていく。
柔らかい髪だ。
ヘアケアのおかげか生来の髪質ゆえかは知らないがさらさらとこぼれていく指通りが楽しくて昔は一晩中飽きもせず触っていた。

「……フカボシ」

髪を梳いているうちに指先が耳に当たり、懐かしさと未練から吸い寄せられるように唇を近づけ、名前を呼んだ。
耳元で囁いた声は先程起こそうとしたときとは比べ物にならないほど小さなもの。
体に触れても髪を弄っても眠ったままだったのだからこの程度では目を覚ましやしないだろうとたかをくくっての行為だったが、予想を裏切りフカボシ王子の身体は大袈裟なくらいビクリと跳ねた。

「…………フカボシ王子?いつから、」

起きていたんですか、と尋ねる言葉は声にならなかった。
片手で耳を押さえて呆然とこちらを見つめていたフカボシ王子の肌が見る間に赤く色づいて、大きな身体がわなわなと震えだす。

「いまのは、ずるいだろう……!」

ずるい、起きているときにはよそよそしくするくせに、触れてくれなくなったくせにずるい。
真っ赤になった顔でキツい印象の目を潤ませてそう詰るフカボシ王子は間違いなく正しいのだがおれにとってはそんなフカボシ王子のほうが余程ずるいように思えた。
だってフカボシ王子は本気になるだけ無駄な、高嶺の花と例えることすら憚られる相手なのだ。
自分のものにできないのに触れなば落ちんという態度をとられても困ってしまう。
どうせ手が届かないのなら、隙のない完璧な王子様でいてくれればいいものを。

***

[フカボシの場合]
君の名を呼ぶ。耳元でそっと囁くように。すると一瞬ぽかんとした後、「ずるい!」と声を上げた。耳を手で押さえながら赤い顔を見せる君の方が、よっぽどずるいと思うけれど。
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