数年前賞金稼ぎの生業の最中に助けた子供に命を狙われている。 そのことを知ると大抵の連中は助ける見返りに大金でも要求したかなにか非道なことをしたのだろうとこちらに疑いの目を向けてくるのだがそれは全くの誤解であり、海賊の攻撃から身を挺して子供を庇い無傷の状態で救ったジョニーに非難されるような謂れは全くない。 話をしようにも数発しかけて分が悪いと理解したらすぐ「また来ます!」と去っていくのだから本当に困ったもの。 そうして面倒なことになったと思いつつ、それでも助けた時と同じように無傷のまま追い払うにとどめていた子供をあえて打ち据え身柄を拘束したのには理由があった。 アニキと呼び慕うかの海賊狩りロロノア・ゾロに匹敵する、とまではさすがに言わないが子供ーーアルバには幼いながらに恐ろしくなるほどの剣士の才能があり、更にはその才能に胡座をかいて努力を惜しむような様子もないときた。 情けない話、剣を合わせるたびに着実に強くなっていくアルバを無傷で捌ききるのが、ジョニーの実力ではそろそろ難しくなりそうだったのだ。 一度は助けた子供をうっかり切り伏せて殺してしまうなんて寝覚めの悪い事態が起きる前にいい加減きちんと話をつけなければならない。 果たして余計な恨みを買うのも覚悟で容赦なく攻撃を仕掛け己をねじ伏せたジョニーのことを、アルバはにこにこと嬉しそうに笑って見上げていた。 親に褒められたことを喜んでいるかのような屈託のない笑みに思わずたじろぎそうになる。 「なにを笑ってんだ。痛めつけられたのがそんなに嬉しいか?」 「はい!ジョニーさんから攻撃してもらえたってことは、少しは強くなったってことですよね!」 助けたとき以来初めて交わすまともな会話。 いままでは躱されたり流されたりばかりだったから嬉しいですと答える子供の笑顔になんだもしやこいつおれに弟子入りした気にでもなっていたのかと胸を撫で下ろす。 が、それも束の間、続いた言葉にジョニーはびしりと顔を強張らせた。 「おれ、ジョニーさんを守れるくらい強くなってあなたのことをお嫁に貰いたいんです」 「…………悪い、いまなんて言った?たぶん聞き間違いだと思うんだが」 なにか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたがいやまさかと引き攣る唇の端を持ち上げて書き直すもなんのてらいもなく「あなたをお嫁さんにします」と断言されて撃沈した。 聞き違いじゃなかった上に言い方が先ほどより力強くなっているのが恐ろしい。 「待て待て待て、おれは男だぞ!?」 「そうですね」 「お前も男だろう!」 「そうですよ。男だから好きな人をお嫁さんにしたいと思うんです」 「おれはあなたをお嫁さんにします」と改めて宣言され、その表情に子供らしからぬ雄の影を見て思わずひぇっと悲鳴が漏れた。 アルバの成長は身をもって理解している。 そしてその成長は身体能力だけでなく当然もっと別の面にも現れているのだろう。 助けて数年、あのときの子供はもはや子供でなくなりつつあるのだ。 「何年でも頑張りますから、とりあえず体勢を崩すことができたらデートしてください」 「なっ、なんでデートの誘いがそんな物騒なんだよ!もっと口説き方ってもんがあんだろうが!」 「ごめんなさい初恋なんで勝手がよくわからなくて」 「初恋……初恋がおれってお前……!」 顔を青くしたり赤くしたりと忙しいジョニーのサングラスを隔てた向こうではアルバが目が眩みそうなくらいにきらきらとした輝かしい笑みを浮かべていた。 ーー後になって思えば、このとききちんと突き放すことができなかった時点で勝敗は決していたのである。 |