三回だ。 料理をしているときのサンジは必ず三回名前を呼ぶまでおれの声に反応してくれない。 他のやつのときには態度の差はあれ一度で反応しているから集中しすぎて聞こえていないというわけではないのだろう。 だとしたらどうしておれのことだけ無視してくるのか。 「サンジ、なあサンジ」 答えがないことを知りつつ鍋をかき混ぜているサンジに二回声をかけ、いつもの三回目を飲み込んで沈黙するとキッチンにはくつくつとスープが煮える音だけが響いた。 三回目がなかった場合どうなるか確かめたかっただけで話があったわけじゃないから問題はないのだが、無言の空間は純粋に居心地が悪い。 まるで冷戦でもしているようだ。 嫌われていて話したくないと思われているのならもう少し距離を置くようにしたほうがいいのかもしれないなと考えてため息をつくとカツンと金属音がしてサンジの動きが一瞬止まった。 一定のスピードで混ぜ続けないと味が落ちるからとこのスープを作るときにはいつも手を休めず動かし続けているのに、サンジにはしては珍しいミスである。 「…………、おい」 「なに」 「なにじゃねェ、呼んだだろ」 沈黙に耐えかねたのかようやく自ら声を発し、それでも振り返ることなく鍋を混ぜ続けるサンジの背中に「別に、もういいよ」と返すとぴくりと肩が跳ねた。 いつもなんとなく聞いてほしくて中身のない雑談をしているだけだ。 別に、どうしても話さなくちゃいけないことじゃない。 「……もういいってなんだよ」 「だからもういいって。料理してんのに邪魔してごめんな」 「なんだよ、話があるから呼んだんだろ」 くるくる、くるくる。 「……おれのこと、呼んだだろ」 くるくる、くる、くる、くる。 一定のスピードとは言い難いリズムで意地を張るようにスープを混ぜていた手がついに完全に止まってしまった。 無視しようとしたのはそっちのくせに、どんな顔して言ってんの。 |