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「つけておけ」

無造作に投げてよこされたものを空中でキャッチして手を開く。
小さな金属の輪は、もしかしなくても指輪だった。
ついている石はとろりとした蜂蜜色。
指輪に加工するには珍しい石だからおれの考えすぎでなければミホークの瞳の色と同じものをわざわざ探して選んだのだろう。
恋人へのプレゼントに自分の色を纏わせるとは、何ヶ月も平気で城に放置したりするわりに鷹の目にも人並みの独占欲はあったらしい。

「綺麗だな。ありがとよ」
「礼は必要ない。だが間違えるたびに指が減ると思え」

照れ隠しに少しからかってやろうかとミホークの思惑とは違うであろう場所にはめようとした瞬間流れるような動きでペンダントの小刀を指の付け根に添えられ、つっと冷や汗が流れた。
本気の目だ。
こいつはやると言ったら絶対やる。
不正解が9回続けばおれの指は左手薬指一本きりになるだろうしチェーンを通してネックレスにでもしようものなら比喩表現でなく首が飛ぶだろう。
一旦反抗の意思がないことを示すためにハングオーバーして素直に指輪をつけるとミホークはしっかりそれを見届けてからふんと鼻を鳴らし小刀を鞘に収めた。
アクセサリー一つで流血沙汰になりかけるなんて恐ろしいにもほどがある。

「ったく、ムードもクソもねェ」
「そんなものを気にするたちか」
「一生に一回のことなんだからいくらおれでも多少気にするわ……こういうのはこうやって渡すんだよ」

ごそごそとズボンのポケットを探って目当てのものを取り出しミホークの左手をとって薬指に口付ける。
何が起きているか理解できていないうちにさっさとはめてやった指輪はおれの目の色の石つきだ。
ミホークの目と違い特別綺麗でもなんでもない色だがそこは勘弁してほしい。

「…………驚いた」
「おれも渡せる日がくるとは思わなかったよ」

恋人を放って暇つぶしにふらふらと海を渡るこいつがちょっとでもおれを束縛したがってくれたら渡そうと持ち歩いてはいたが、諦め半分の願掛けのようなものだったので一生ポケットの中でもおかしくないと思っていたのだ。
それがまさか狙って用意したようにチョイスがかぶるとは。

「お前、おれに対して独占欲とかあったんだなァ」
「なければお前はここにいない」
「どういう意味だ?」

自分の手にはまった指輪をじっと見つめていたミホークが「奪われないようにするなら誰の目にも触れさせないのが一番手っ取り早いだろう」と呟く。
まったく理解も同意もできない。
なにせおれは今すぐにでもミホークとお互いの指輪を世界中に見せびらかしたいと思っているのだから。