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- ナノ -

悪魔の実を食べて数カ月。
まだできることは少ないし使いこなしているというには程遠い状態だが、それでも訓練を重ねて上達し、少なくとも能力の発動に失敗して暴走させることはなくなったと自負していた。
が、どうやらそれは思いあがりだったらしい。
近頃アルバを見つけて話しかけようとする度に周りの音が聞こえなくなったり声が出なくなったりする。
まだまだ訓練が足りないということだ。
自分はただでさえドジっ子なのだから、いざというとき困らないようもっともっと精進せねば。

「……ちなみにお前が能力を暴走させたと思ってるとき、おれはいったい何してた?」

ロシナンテの話にそうかそうかと相槌を打ちつつ泥のような苦いコーヒーを啜っていたアルバが少し考える素振りをした後そう尋ねてきた。
問われて目を伏せ、思い返す。
能力を暴走させたとき。
アルバに話しかけようとしたとき。
そのときは確か。

「アルバは確か、おんなと、」

女海兵と楽しそうに話をしていた。
海兵ではない、派手な化粧の女に腕をからめとられているときもあった。
アルバはいいやつで顔も広いから、優しい顔で後輩の頭を撫でていたり同期の他の友人から合コンに誘われていたこともあった。
やけに鮮明に焼き付いている記憶を頭の中で並べてみてもシチュエーションはばらばらで、なにが暴走のきっかけになっているのかはわからない。
とはいえアルバに当時の状況を説明しているだけで音が遠くなる感覚に襲われるのだからやはりすべては悪魔の実の能力のせいなのだろう。
ついでに胸がズキズキ痛むのは、きっといつまでも力を使いこなせない自分への不甲斐なさのせいだ。
自分の考えに納得し一人うんうんと頷いていると、しかしそれを否定するようにアルバが「おれロシナンテのこと確実に能力暴走のときと同じ状態にするセリフ思いついたわ」と苦笑した。
しかたのないやつめといわんばかりなのに見下されているとは感じない優しい笑みに、遠くなった音の中から騒がしい心臓の音だけが返ってくる。
静かなのにうるさい。
それはまるで世界に自分とアルバ、ふたりきりになったようで。


「うん、じゃあーーちょっと騙されたと思って『おれはアルバのことが好き』って言ってみな?」


バクリ、と、心臓の音が。