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「大将、はい」

ずっとおれの片手を塞いでいた大きな石を素直に差し出された大将藤虎の手のひらへぽんと乗せると「おお」と感心したように小さな声があがった。
体温でも日光でも温まることのないひんやりとしたそれは夏の気候が長いこの島で涼をとるのに重宝されているらしい。
体格のいい大将が持っても小さくは見えないあたり携帯するにはなかなか邪魔な大きさだが、まあ島に近づいたとき首回りが暑いと言っていたから丁度いいだろう。

「それで、アルバ。今度のはどんな色柄をしてるんで?」
「ぱっと見は普通の石ですね。ただ太陽に透かすと青くなって、光を反射した海みたいにキラキラするんです」
「へェ、そいつはまたいい物を」

嬉しげに微笑む大将は、こうして色んな島につくたびに綺麗な石や珍しい石を探しては大将に押し付けるおれの奇行に意味があるだなんて思ってもみないに違いない。
いや、大将だけでなく海軍にいる誰もがそうだ。
グランドラインの片隅にある小さな島ーーおれの故郷にだけ生息している少し不恰好で愛らしい鳥は、求愛行動の際に石を贈る。
それにあやかったのかなんなのか島民には惚れた相手に石を贈る風習が根付いていて、おれのこれは、つまり、そういうことだ。
想いを告げる勇気も仕舞い込むだけの忍耐力もないおれにはもってこいの遠まわしな告白方法だが、わけもわからず石を押し付けられる大将はきっといい迷惑だろう。
それなのに毎度笑って興味深げに受け取ってくれるものだからおれは石を贈るのをなかなかやめられないでいるわけで、大将に非はないとわかっていても罪な人だと思わずにはいられない。
いっそ断ってくれれば諦めもつくだろうにと勝手なことを考えながら自分用に持っていた石を頬に当てていると、視えもしない石の色を確かめるように太陽へかざしていた大将が「ところで」と静かに声をあげた。

「いろんな石を贈ってもらえるのはありがてェがそろそろ量が量なもんで持ち運びが難しくなってきやして」
「持ち運び……って、えっ、今までの石全部持ち歩いてたんですか!?」
「大切なもんは身に着けとかねェといつ何時どうなるかもわかりやせんので」
「大切…いやそれは嬉しいんですけど、重いでしょう?」
「へえ、だからそろそろ、石以外のものを貰えねェかと」

大将の言葉に驚き、喜び、そしてついにもういらないと言われるのかと諦念を浮かべたおれは予想とは違った続きの意味が理解できず小さく首を傾げた。
石以外、嵩張らないものと考えると食い物でも渡せばいいのだろうか。
別に嫌だとは言わないが部下にものを強請るような人ではないのでなんとなく違和感がある。

「……ある島じゃァ、石を運ぶ鳥がいるそうで」
「は、……は!?」
「あっしのことを考えて選んでくれた石もいいもんだが、目の利かねェ身としちゃあ聞こえるものの方がありがてェ」

ここまでいえばわかるだろうと言わんばかりの様子で笑う大将にそういやこの人見聞色の覇気の達人だったなと思い至り、へなへなとへたり込む。
だってばればれだ。
誰にも理解されないだろうと思っていた奇行の意味が一番知られたくなかった人にばればれだったのだ。
想われていることに気付いていながら知らぬふりを続けていたのも今こうやっておれの口から直接伝えさせようとしているのも全ておれを立てるためなのだろうがそれにしたって恥ずかしい。
それでも黙ったままのおれに「頂けねェんで?」と催促してくる声はどことなく不安げなものだから、おれはやっぱり大将は非はないけど罪な人だなと思いながら覚悟を決め、もつれる舌を動かした。
すきですなんて陳腐でありきたりで聞き取れるかも怪しいほど掠れた言葉。
おれの気持ちはずっと前からわかっていただろうに、今更はにかむ大将は本当にずるい。