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「好きです、愛してます。だからおれは、船長が望んでくれたように船にいるだけじゃなくこうやって抱きしめてキスしたい」

気持ちを伝えた瞬間船長が息をつめたのを感じて畳みかけるように願望を口にする。
ピアスのついた耳朶を唇で啄ばむとようやく時間が動き出したように船長の身体が大きく跳ねた。
横目に見える真っ赤なうなじに調子に乗り耳から首筋までキスを落とすが抵抗はされない。
唇と肌が触れるたびに増していく熱と震えは、船長の「好き」がおれと同じものでこの想いが独りよがりじゃない証拠だと思っていいのだろうか。
まあ、万が一気持ち悪がられているのだとしても冗談として流されてしまうよりよっぽど上等だ。
いまのおれにとっちゃ受け入れてもらえないことより信じてもらえないことのほうがずっと辛いんだから。

「指輪も、買い戻すのは当然として、それとは別に自分で用意したものを贈りたい」

できればペアリングで、船長の左手のTが隠れるやつがいいと喋りながら浮かんだ詳細に自分自身で驚いた。
今までは「気持ちを伝えて指輪を贈りたい」と思うだけでそこまで考えたことはなかったのだが、おれはどうやら謙虚な船長とは違い欲張りで図々しい人間のようだ。
そっと密着していた身体を離して船長の左手をとる。
燃えるように熱かった耳とは対照的にひやりとした手がされるがまま宙に浮いた。

「船長はおれに『嫌うな』と言ってくれたけど、おれはそれじゃ満足できません」

薬指に唇を押しあてじっと目を見つめる。
先ほどとは違い船長の表情は完全な無だ。
ただでさえ鈍感らしいおれに思考など読みとれるはずもなかった。
うなじ同様赤く染まった頬の理由が怒りでなければいいんだが。
そんなことを考えながら、最後の願いを告げる。

「トラファルガー・ロー、あなたが好きだ。だからどうか、おれを愛してください」
「……………………ぁ」

気障ったらしいセリフを言い終わって十数秒、呆けたように瞬きすらせずおれを見ていた船長がゆっくりとした動作で胸に手をやるのにギョッとして左手を放した。
胸を押さえて苦しげに俯く船長。
昨夜と重なる姿にあったはずの余裕が一瞬で吹っ飛んだ。

「また心臓が痛いんですか!?おれ気持ち悪かったですかそんなに嫌でした!?」
「ちげェよ馬鹿!」

存外元気そうに罵ってきた船長に、違うならなぜと眉を寄せる。
船長が胸元をつかむのは辛かったり悲しかったりしたときじゃないのか。
イマイチ事態が把握できないおれに船長が凶悪な顔で舌打ちをかました。
相変わらず怖いなァ、まっかっかだから迫力皆無だけど。

「喜んでんだ、察しろ鈍感!」

胸に飛び込んできた船長にそのまま身体を押しつけられ、尻もちをつきながら抱きとめる。
喜んでる、という言葉に瞠目していると「おいこら、ちゃんと意味わかってんのか」と不安そうな声が耳に届いた。
おれの告白に喜んで、抱きついてきたってことは、その意味は、つまり。

――ああなるほど、これは確かに、痛い。

バクバクと高鳴る心臓を互いに押さえるように腕をまわすと鼓動が二つ、重なった。