不思議なことに、この広い海では何年かに一度という頻度で『波』が起きることがある。 それは田畑を荒らす害虫が大量発生するように、あるいは作物が気まぐれな気候を味方につけ予想外の豊かな実りをみせるように。 血気盛んで恐れ知らずなルーキーどもがまるで示し合わせたみたくごく短期間で集中して白ひげのシマで暴れだすのだ。 骨のあるルーキーがいれば引き込んで育てる楽しみもできるし戦闘自体別に嫌いではない。 とはいえこうも立て続けに動き回らなきゃならないとなるとさすがに疲れるというもので、そんなときに頼りになるのが一番隊の隊長であり自身の恋人でもあるマルコである。 不死鳥姿のマルコを撫でているだけで肉体的にも精神的にも回復できるのだから本当に素晴らしい。 これはもはやアニマルセラピーの最高峰といっても過言ではないだろう。 「マルコのほうが忙しいのに付き合ってもらって悪いなァ」 「おれの場合はこういう能力だからねい……人より頑丈だし疲れにくくできてるから、多少忙しいくらいなんでもねェよい」 「そりゃ身体的にはそうかもしれねェけど、ストレスなんかは別物だろ?」 お疲れ様と労りの言葉をかけて心地よい暖かさの背を撫でると、あぐらの上で羽と首を器用に折りたたんで丸くなりおれを癒してくれていたマルコがちらとこちらに視線を向け、ふわりと蒼い炎を燃え上がらせた。 あ、と思ううちに炎が揺らめき幻想の鳥が人へと変わっていく。 次の瞬間にはもう人に戻ったマルコに膝立ちで跨られていて、目と鼻の先に現れた刺青入りの胸元におれは思わず息を飲んだ。 「……おれも疲れてるだろうと思うなら自分だけいつまでも動物に癒されてねェでやることがあんだろい?」 「あー……マッサージでもしてやろうか?」 不満そうでありながら煽るのを楽しむようにおれを見下ろし舌なめずりするマルコを茶化すと割と本気の拳で頭を殴られた。 痛い。 「冗談言ってると本当にマッサージしかさせねェよい」 「大変だ、それは困る」 機嫌をとるように寄せられた唇を啄むと足りないとばかりに背中に回る腕。 不死鳥を癒すなんて大役がおれに務まるのかは疑問だが、まあ、本人がご所望なのだ。 お返しも兼ねて精々頑張らせてもらうとしよう。 |