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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

ワノ国のサムライは田畑を耕し鍬を振るうことで刀を扱う訓練をすると聞くし、どこぞのカンフーマスターは基本の動きを身体に叩き込ませるために弟子に窓ふきをさせるという。
だから日常の些細なことが修行に繋がっていても別におかしくはないのだが、これはさすがに、少しばかり意地が悪いんじゃないだろうか。

「若……せめてもう少し覇気を弱めてもらえませんか」
「フッフッフ!馬鹿を言うな、簡単に切れるようじゃ特訓にならねェだろう」

自分で整えるのは面倒だしおれがやったほうが仕上がりが丁寧だからと若の爪切りを任されたのは数ヶ月前のこと。
おれのほうがよっぽど面倒臭がりなのにと思いつつ爪切り程度ならやすりがけを含めてもそう時間はかからないからと了承して、しばらくは普通に爪を切るだけだったからこんなものかと油断したらこれだ。
武装色の覇気で黒くなった若の指先は同じく覇気を纏わせた爪切りでしか切ることができないのだが、そもそもおれと若では覇気の練度が全然違う。
生半可な集中力じゃ傷ひとつ付いてくれない。
一本切り終わるだけでもどれだけかかるかわからないのに「全部切り終わるまで付き合ってやる」とか言い出すものだからテンションは下がる一方だ。

「おいおい溜め息なんてつくなよ、傷つくじゃねェか!」
「……何時間もかかったらおれも若も腹が減るだろうなと思いまして」
「フフッなに、心配するな。ここに持ってくるよう手配済みだ。お前は両手とも塞がって使えねェだろうが……安心しろ、飯くらいおれが手ずから食わせてやる」

なるほど準備は万端というわけか。
若が徹底的にやるつもりである以上、悲しいがおれに拒否する権限はない。
再度溜め息をつき、諦めとともに爪切りを握り直したおれを見て若は楽しそうに笑っていた。



* **



あれから三年。
おかげさまで鍛え抜かれた覇気により若の黒い爪はぱちぱちと大した抵抗もなく切れていくようになった。
それを眺めながら不機嫌そうにむすっとしている若は、もっと触れていたいとか拘束したいとか構われたいかと思っているのならこんな面倒なことをせずストレートに伝えてくれればいいのだ。
まあ、それができる性格ならそもそも爪切りを特訓になんて面倒なことを言い出したりしていないんだろうけど。

「ーーはい、終わり」

面倒くさい恋人の爪は、今日もおれの手で丁寧に短く整えられている。