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大将黄猿ーーボルサリーノの指揮する部隊は大将直属の部隊のなかでは比較的仕事のバランスがとれているものの、だからといってデスクワークの量が少ないのかといえばそうではない。
ついでに本人が特別真面目な気質というわけでもないため、ここ最近のように書類が山積みになるとわかりやすく空気がピリピリし出すのだ。
いかに恋人といえど機嫌の悪い上官と顔を付き合わせて長時間仲良く事務仕事をしたいとは思えず、目を通さなければならない書類と目を通してもらわなければならない書類にある程度キリがついたところでおれはそそくさと席を立ち昼休憩に出ることにした。
のだが、未だに膨大な枚数の紙の束と格闘している上官の恨みがましい視線が痛い。
咥えていたタバコをゆっくりと吸って細い煙を吐き出したボルサリーノがサングラスの奥でスッと目を眇める。

「やけにそわそわしてるようだけどもォ〜……わっしと離れられんのがそんなに嬉しいのかァ〜い……?」
「いやいやまさかそういうわけでは」
「なら十五分で戻ってきなよォ〜」
「は!?食堂との往復だけで十分はかかるのにそんな、」
「今ほんっとうにイライラしてるからねェ…アルバがいねェとイライラしすぎて部屋ん中滅茶苦茶にしちまうかもしれないよォ〜」
「すぐ戻ってまいります」

だからこれ以上仕事を増やすのはやめてくれとボルサリーノの口からタバコを奪ってご機嫌とりのようにキスをすると、ボルサリーノは少しの沈黙のあと「やっぱり十分」と酷いことを言い出した。
上官とか部下とか仕事とか関係なく恋人であるおれと離れたくないのはわかったがそれはそれこれはこれ。
おれの休憩をがしがし削ってくるのはいただけない。
まあ、まったくもうと思いながら食堂まで全速力で走ってしまうおれの甘さが横暴を増長させているのだと思うと強く抗議することはできないのだけれど。