「マルコって簡単に人の頭撫でるよなァ」 長年気になっていたことをなんでもない風を装って口にするのはとても難しい――と思いきや案外簡単だったらしい。 するりと出てきたおれの言葉を訝しがることもなく気怠げな様子のまま「ああ」と答えたマルコはこちらの複雑な心情なんて一ミリも理解していないだろう。 長年かけて築き上げてきた信頼故の無関心にホッとする反面、少しばかり腹立たしくもあった。 「癖……なんだろうねい。若いのが頑張ってんのを見るとなんとなく手が伸びるんだよい」 「おれが船に乗っときはもう若いって歳でもなかっただろうが」 おれがオヤジの下についたのは十年前。 いま思えば青かったと感じはするもののマルコとそう年の変わらない当時のおれを『若いの』扱いするのは無理があるだろうと眉を寄せると「それだけガキみてェだったってことだろい」と鼻で笑われた。 「小さいことで騒ぎばっかり起こして、本当に迷惑だったよい」 「家族を馬鹿にされたんだからしかたねェだろ。それに迷惑とか、騒ぎの後によくやったって頭撫でてきたやつがよく言うぜ」 「ん?なんだ、またそこに戻るのか。撫でてほしいならそう言えよい」 おっさんでも頑張ってるならたまには褒めてやるよいと固い手でぐしゃぐしゃ頭をかき混ぜてくるマルコはおれが触られんの久しぶりだなとか昨日シャワーを浴びていてよかったとか思っていることを知らない。 知らないのは罪だ。 そしてそこに漬け込むのは、もっと。 「……お前も頑張ってるよ」 マルコの手が頭を撫で終わって離れていったのと入れ違いに手を伸ばし、柔らかそうな金毛をぐしゃりと撫でる。 潮で痛んだ髪は思っていたより手触りがいいわけではなかったが、ずっと焦がれてきたマルコの髪に触れたというだけでおれの気分は高揚した。 「まあ最近疲れてるみたいだし、あんま頑張りすぎねェように……マルコ?」 「うるせェ見んな」 「なんだその顔、そんな嫌だったのか?」 「嫌なわけじゃねェが……昨日、風呂入ってねェから、汚ねェだろい」 苦々しそうな恥じらっているようななんともいえない表情でおれが考えていたのと似たことを呟いたマルコに『べたついた髪を触られただけで耳が赤くなるものか』という疑問をぶつける勇気を持っていたら、もしかしておれたちの関係は何か違っていたんだろうか。 |