「あのさァ、もしかして浮気とか、した?」 冗談めかして聞こうとして失敗したのだろう。 声の調子と感情の乗せ方が明らかにちぐはぐになっているクザンと目が合って、どうしてそんな疑いをかけられたのかと驚いていると暫くの見つめ合いののち机に肘をついていたクザンが「あー……」と声を漏らしながらずるずる沈み込むように顔を伏せた。 どうやら本気で口にしたことを誤魔化せないと悟ったらしい。 「クザン」 責めるつもりはなかったのだがクザンにはそう聞こえたのか、丸まった背中が小さく震える。 おれなんか数秒で殺せてしまうくらい強いくせに、こうも簡単に怯えられるとまるでこちらがいじめっ子のようではないか。 というか、クザン本人からもっと優しくしろと言われてたまには優しくしようと思いたち実際に優しくしてみただけだというのになんで浮気を疑われたあげく怯えられなきゃならないんだ。 考えれば考えるほど理不尽を感じて、なかったはずの責めるつもりが胸の奥からむくむくとわき上がってきた。 いじめられたくて狙ってやってるんじゃないだろうな、こいつ。 「……だって、おかしいでしょうや。急に一緒に帰れるか聞いてきたり、手料理とか、花束とか、記念日でもねェのに突然、」 それってやましいことがあるってことなんじゃねェの。 湿った吐息。 不安に揺れる声。 そんなふうにそこまで言われて、完全に気が変わった。 顔を隠している腕を引き再度「クザン」と呼びかけると声色の変化に気がついたのかそれとも本能で何かを感じ取ったのか、先ほどとは明らかに違う原因でクザンの身体に震えが走る。 慌てたように顔を上げたクザンと目が合ったが、今更焦ったところでもう遅い。 「クザンがあんまり嫌がるから今日くらい普通に優しくしてやろうと思ってたんだけどな、クザンはそれじゃ嫌みたいだから。 ーーしかたないから、うんと優しくしてやるよ」 にっこり微笑むとクザンの喉からヒッと小さな悲鳴が漏れた。 それでもその目には怯えだけでなく確かな期待の色が混じっているのだから可愛いものだ。 「大丈夫、二度と浮気なんて疑えないようにしてあげるから」 待ってなんて、自業自得だよ、馬ァ鹿。 |