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おれにはペルという愛し合う恋人のように見える友人がいる。
愛し合う恋人、ではない。
恋人のように見える友人だ。
どのくらい相思相愛っぽいかというと、新しくやってきた護衛兵見習いはもれなく三ヶ月以内に「ペル様とは特別なご関係で……?」と聞いてくるし、付き合っていないと否定したら隠さなくていいからと生ぬるく微笑まれるし、チャカに至っては「冗談を言うな」と笑い飛ばされたあと本当なんだと言い募ってなお「冗談だよな……?」と本気で意味がわからないといった様子で聞き返してくるほど。
適切な友人関係としての距離をとろうとすれば親を見失った子供のようにおろおろし、どうして冷たくするんだ自分が何かしてしまったのかと悩みだし、そのうち見ている方が痛々しくなるほど憔悴してしまっておれがお叱りを受けるはめになる。
いっそ本当に恋人になってしまえればいいのだが、肝心のペルが自分の諸症状に無自覚でおれのことを友人としてしか認識してくれないのだからどうしようもない。

「ーーーーというわけでして」
「おお……」
「好きだ、おれの恋人になってくれないかと告白したら『そういう冗談を言うのは私だけにしておけ、本気にされると厄介だぞ』と返されました」
「ペルのやつ……マジか……」
「同じ気持ちですがマジとか言わないでくださいコブラ王」

そろそろいい加減にはっきりさせようと告白して振られるどころか冗談として流されてしまい自棄になって同僚に女性の紹介を頼んでいたところ、お前にはペルがいるだろう浮気はいかんぞ浮気はとおれを連行して諭そうとしてきたコブラ王が手のひらで目を覆って天を仰いだ。
栄えある護衛隊の副官が無自覚すぎて王族を絶望させるなど、なんと罪深いことだろう。

「いや……いやしかし、お前が恋人をつくったりしたらペルがどうなるか……」
「めちゃくちゃ傷つくだろうなっていうのは予想できますけどね。でもおれだって傷つきましたし。もういっそチャカと付き合って目の前でイチャイチャしてやりたいくらいですよおれは」
「やめてやれ、それはチャカがかわいそうすぎる」

真剣な顔でおれを止めていたコブラ王が「ほらこれをやるから」とポケットを探り手に握らせてきたものを見てギョッとした。
手の中でジャラリと音を立てたそれは紛うことなき王国金貨だ。
しかもぽんと渡すにはおかしい、結構な額の。

「コブラ王、これは」
「私のへそくりだ。それでペルと飲んでこい」

仕えている国の王から金を握らされるというなかなかの事態に慌てているとなんともいえない王命を言い渡されて微妙な表情を浮かべてしまった。
要はそういう対象として意識されていないのが問題なんだとか、言いたいことは理解できるけども。

「いいか、無理やりはいけないぞ。それは犯罪だからな。だが酒でお互い気が大きくなってついうっかり何かが起こってしまうのは往々にしてよくあることだ。それを狙え。何かが起きるまで飲み続けろ。意識さえさせてしまえばお前の勝ちだ!」
「王……」

おれの両肩を掴み、キリッとした顔で言い放つコブラ王。
ありがたいけど王族以前に人としてちょっとどうかと思います。
いや、本当にありがたいんですけどね。