おれはマリンフォードにほど近い小島に食料品店を構える店主で、ミホークさんはそのお客。 召集された帰りだとか暇つぶしだとかでふらっと立ち寄っては食料や水を買っていったり海王類の肉を破格の安値で譲ってくれたり、航海の途中で摘めるような菓子を渡すこともあれば休憩がてら一緒に茶を飲むこともある関係だが、タメ口はきけないし次に会う日を約束をすることもない。 そんな微妙な関係を変えることなく何年も続けてきた。 たぶんおれが店をたたむまで変わらないんだろうと思っていた。 それなのに最近、ミホークさんがおかしい。 睨みつけられているーーのではなくただ単にめちゃくちゃ見られているだけなのだが、いかんせんミホークさんは目力が強いのでとてつもなく威圧感がある。 今日もまたミホークさん専用と化している椅子に座って紅茶を飲みながら缶詰を在庫整理をしているおれの背をじっと見てくるので「どうかしましたか」と声をかけてみたものの相変わらず言葉を濁されるばかりで、しかし一旦逸らされた目は数秒後にはもうおれの動きを追いかけてきていたから何かしら用があるのは間違いないはずだ。 大剣豪らしく一般人には想像もつかないような強い精神力を持っているはずのミホークさんをして言いづらいこととは一体全体なんなのだろう。 思いつくとしたらもうこの店には来られないというような別れの言葉くらいか。 ミホークさんが店に来なくなる。 ミホークさんに会えなくなる。 それは嫌だな。 どんな理由があったとしてもミホークさんに会えなくなるのは嫌だ。 「アルバ」 会えなくなるかもしれないと思うとどうしようもなくもやもやして、視線は気になるがそういうことを言われる可能性があるならやぶ蛇にしたくはないしおれからはもう何も言わないでおこうと考えた瞬間明らかに決意を固めた様子のミホークさんに声をかけられて頭を抱えたくなった。 タイミングがひどすぎる。 「アルバ」 「あー……はい、なんで」 「好きだ」 「は?」 相変わらず睨みつけているような鋭い目で「お前のことが好きだ」と繰り返したミホークさんに頭が真っ白になり、誤魔化すようにへらりと笑って「それはもしや恋愛的な意味で?」と尋ねるとコクリと頷かれてしまった。 手が震えて持っていた鯖缶が床に落ちる。 それを拾おうとして腕に抱えていたカニ缶も次々と落下していった。 だから、タイミングがひどいんだって。 なんでよりによって缶詰の整理の最中なんかに告白したんだあんたって人は! 「アルバ、返事は」 「え、いや、返事、は…………か、考えさせて、ください?」 自分は散々時間をかけて覚悟を決めたんだろうに告白して早々答えを要求してきたミホークさんに頬を引き攣らせ、頭真っ白状態のまま今できる最大限の返事をすると恐ろしいほどに鋭かった鷹の目がきょとりと瞬いて丸くなる。 「――考える余地があるのか」 思わずこぼれたといったふうにぽつりと呟かれた言葉を聞いて、次いでふわりと緩んだその目元を見て、そういえばこの人おれに告白するためにあんな緊張してたのかとかすぐに断られなかったってだけでこんなに嬉しそうにするのかとか考えて、 ああ、なんだこれ。 心臓が痛い。 |