海兵がうじゃうじゃいる島に偵察として降りた日のこと。 そのとき思ったことを、おれは未だにはっきりと覚えている。 そう、ハートの海賊団のシンボルが入っていない『普通の』服に着替えた船長を見ておれはこう思ったのだ。 こいつ馬鹿にしてんのか、と。 服を着替えたのは当然海兵に目をつけられないようにするためであり、つまり大切なのは雑踏の中に簡単に紛れ込むことができる没個性さである。 変装なんて大層なものではなく適当に地味めのシャツとズボンを選んでサングラスやメガネで顔を隠せばそれで済む。 簡単な話だ。 だというのにそのときの船長ときたら黄色のパーカーの上にやたら鮮やかな水色の上着をはおり更に頭にはいつもの帽子という、忍ぶつもりあんのかお前とキレたくなるようなありさまだった。 しかもダサい。 色合いや柄やひとつひとつのアイテムが絶妙に喧嘩をしていて何一つ噛み合っていない。 まるで隣を歩く人間の顔面偏差値に合わせてグレードダウンしてきてくださったかのような出で立ちにおれはつい船長とかクルーとかいう立場を全て忘れて舌打ちをかましたくなった。 すんでのところで思いとどまったおれを誰か褒めてやってほしい。 「船長」 「……偵察に行くんだから船長はやめろ」 「アイアイ。じゃあロー、偵察のついでに服買いに行くぞ。おれが全部選んでやる。金も出すから文句は言うな」 偵察に行くって認識はあったのかとか呼び方改める前に服装改めろとか言いたいことは多々あったが指摘して臍を曲げられても困るのでおれは迷うことなく船長の腕を強引に掴み、いの一番に服屋を目指すことにした。 ギョッとしたように目を見開いた船長だったが抵抗らしい抵抗はない。 ちらりと振り返ると腕を引かれて大人しく斜め後ろをついてくる船長の頬はなぜだか少し赤らんでいて、ダサい格好をしえいるくせに、おれにはそれがやけに可愛く見えてしまったのだった。 そして今現在紆余曲折あり付き合うことになった船長からあれが初めてのデートだったと聞かされて色々と動揺している自分がいる。 とりあえず、怒鳴ったりしないでよかった。 |