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「#幼馴染」のBL小説を読む
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幻獣種『不死鳥』の象徴たる再生の蒼い炎は間違いようもなく美しい。
触れても傷つかない温かな炎がゆらゆらと揺らめく様はなんとも幻想的で、戦闘時のみならず日常的に身にまとっているマルコですら眺めていて飽きないと思うほどだ。
しかしだからといって屈強な男どもから面と向かって綺麗だなんだと褒められるのは炎のことだとわかっていても鳥肌ものでしかなく、だというのに誰もかれもが口を揃えて同じ褒め言葉を口にするものだからマルコは能力を披露することにすっかり嫌気がさしていた。
それはもう、キラキラと目を輝かせながら褒めちぎってくる野郎を一列に並べて蹴り飛ばしてやりたいくらいには。
そうしないのはマルコが悪意なく褒めているだけの新入りや島民に暴力で返すのはいかがなものかという海賊にしては真っ当な考えをもっているがゆえであり、己の良識に従い甘んじて嫌々褒められ続けてきたマルコはついに「これはそろそろくるな」というのが雰囲気でわかるようにまでなってしまった。
何が言いたいかというと、つまり、マルコはいま褒められる前からすでにげんなりしているということだ。
ついこの間初めて能力を見せたばかりの新入り、アルバと甲板に二人きりという状況にがりがりと頭を掻く。
褒めるならせめて格好いいと言ってほしいのだが、当人ですら美しいと感じる炎を前にその感想は望み薄だろう。

「この間隊長が能力使ってるとこ初めて間近で見たんですけど、すごいですね。見惚れちゃいました」

そうら、きた。
今回はきらきらと目を輝かせている弟がまだ年若く、子供っぽい振る舞いが見苦しくない風貌をしているのが唯一の救いか。
案の定紡がれたありきたりな賞賛にマルコはわざとらしく息を吐き「ありがとよい」気のない礼を返した。
空気の読める相手ならそれですぐに察して引いてくれるので今回もさっさと終わらせてしまおうと思ったのだ。
思ったのだが、礼を言った後に何気なくつぎ足された「あの顔」という一言に違和感を覚え、マルコはくっと眉根を寄せた。
能力そのものの炎はともかく能力を使っているときの顔など、言及されるのは初めてのことである。

「……おれの顔が、どうかしたのかよい」
「いや……どうかしたっていうか、能力使ってるときのマルコ隊長の顔がね」

眉を寄せたまま尋ねると僅かに首を傾げたアルバがゆっくりと口を開く。
先ほどまで見せていた子供の顔ではない。
記憶の中の光景を重ねるように細まった目がマルコを捉えた瞬間、なにか、これまで感じたことのない震えが背筋を走った。

「あのときのマルコ隊長の顔ーーあくどくて、すごいエロかったです」

意図してか無意識か小さく舌なめずりをする、それこそあくどい表情のアルバに、マルコはなぜかひどく掠れてしまった声で「そうかよい」とだけ返した。
ばくばくと心臓が脈打つ。
綺麗だなんだという褒め言葉より一層嫌悪感を覚えてもしかたないアルバのセリフを不快に感じない理由は、できればあまり考えたくなかった。