体力おばけのスモーカーとは違いごく一般的な海兵でしかないおれは一回の遠征だけですっかり疲れきってしまう。 家に帰りついてすぐぐったりと横になるおれをスモーカーは毎度いらついた様子で貧弱な野郎だと罵ってくるが、もう一度言う、スモーカーが体力おばけなのだ。 そんなに体力有り余ってるなら貧弱なおれのためにメシ作ってくれよ。 いや、帰ってくる時間がわからないときは自分でメシ作るのが同棲のルールだし、普通に甘えんなって怒られそうだから言わないけど。 とか思ってたら今回の遠征帰り、扉を開けた先にめちゃくちゃ厳しい顔をしたスモーカーが仁王立ちで待ち構えていて心臓が飛び出るかと思った。 因縁のある海賊を前にしたってそんな顔しないだろう。 威圧感が半端じゃない。 「ス、スモーカー?」 なんかやらかしちまったっけと恐る恐る名前を呼ぶおれに、スモーカーは唸るような低い声で「メシ作るから風呂に入ってこい」と告げた。 セリフと顔が合ってなさすぎて一瞬耳がおかしくなったかと思ったが浴槽にはたっぷりと湯が張ってあって余計に混乱した。 久々に味わうスモーカーの手作り料理は食いごたえがあって美味かったし、なんなら脱ぎっぱなしにしていたブーツまで磨かれてた。 嬉しいけどスモーカーが終始例の厳しい顔を崩さないので素直に喜べない。 本当になんだこれ。 「あー……なんかよくわからねェけど、ありがとうな、色々してくれて」 食事の後の片付けも奪われいよいよあとは寝るだけという段階になったとき、ふかふかのベッドを前に感謝の意を伝えると葉巻を消したスモーカーがぎしりと歯を噛み鳴らしてこちらを睨みつけてきた。 暗い部屋の中で見るその様相はやはり怒っているようにしか見えなくて、けれどどうしても意図がわからないから困ってしまう。 「スモーカー」 情けなく眉を下げて伺うように伸ばした手が避けられることはなく、指先で触れた頬の感触にホッと息をつく。 が、それと同時に胸ぐらを掴んで引き寄せられ比喩表現なしに唇に噛み付かれたおれは思わず目を白黒させた。 「……てめェのためにしたわけじゃねェ」 物を投げるようにベッドに放り出され、のしかかってくる厚みのある体。 全部世話してやったんだから一回くらいできるだろうと唸る声は相変わらず不機嫌そうで、親の仇を見るような目で睨みつけてくる厳しい顔は部屋の薄暗さに負けないくらい真っ赤に染まっていた。 |