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毎年毎年冗談とは思えないような真剣な表情で「別れようか」と言ってきては慌てるおれを面白がる悪趣味な恋人に今年こそは騙されないようにしようと考えたとき、いっそ同じ嘘で先手を取ってやってはどうかと思いついた。
内容が被れば後出しで嘘をつきにくくなるだろう。
それに、嘘だろうとわかっていても不安になるこちらの気持ちを少しはあいつも味わうべきだ。
自分の思いつきにうんうんと頷いたおれはさっそく行動に移すべくボルサリーノの執務室に足を向けた。


「ボルサリーノ、別れてくれ」

話があると前置きし、一呼吸おいて要件を口にする。
演技にそれほどの自信はないが例年のボルサリーノを真似て真剣な雰囲気を出しているからわかりやすい嘘をと一笑に付されることはないはずだ。
さてどんな反応が返ってくるかと表情を崩さないよう気を付けながら黙っていると、十秒、二十秒と沈黙が続いたあとついにボルサリーノが動いた。
ゆっくりと椅子から立ち上がっておれに近づき――腹に一撃。

「ぐ、ッ!?」

予想外の攻撃に蹴られた腹を抱えて息を詰める。
吹き飛ばされることなくたたらを踏む程度で済んだのはそれが能力なしの純粋な蹴りだったからなのだろうが、それにしたって、嘘をつきかえしただけでいきなり暴力を振るってくるなんて酷すぎやしないか。
せめて嘘か本気かを確認するとか突然そんなことを言い出した理由を聞くとか、暴力に至る前にいろいろと順序があるだろうに。

「ボルッ……え、ボルサリーノ?」
「っ……!」
「えっなに泣いて、え、どうした?おい、ええっ?」

詰るつもりで顔をあげたおれの目の前をぼたりと大粒の水が落ちていって、まさかと思って見てみればぼたぼたと涙を流すボルサリーノの姿。
一瞬俺を騙すための嘘泣きかと疑ったが次から次へと溢れてくる涙も全然堪えられていないくせに無駄に力がこもってすごいことになっている眉間の皺も血が出そうなくらい食い締められた唇も何もかもが到底嘘には見えなくて、おれは再度「ええ」と戸惑いの声をあげた。

「ボ、ボルサリーノ……?今日はエイプリルフールで、その、別れてくれって言ったのは嘘だからな?ほら、お前だって毎年言ってるだろう?」
「わ、わっしはっ、別れようかって聞くだけ、でっ、別れてくれなんて、そんな言い方、したこと、ない……!」

ひぐひぐと嗚咽交じりにおれを責める言葉にそう言われればと例年のボルサリーノを思い返す。
積極的なニュアンスを避けたのは、もしかすると嘘をつく側のボルサリーノにもどこかしら不安があったからなのだろうか。

「う、嘘だっていうのも、遅かったっ」
「それはお前が反応しなかったから……」
「お゛そか゛った゛……!」
「あー……すまん、おれが悪かったよ」

腹を蹴られたおれが謝るのはなんだか釈然としないものがあるが、プライドもくそもない泣き顔で胸に縋られては降参するより他に道はない。
そんなに怒るほどおれのことが好きなのかとドキドキしてしまう程にはボルサリーノにベタ惚れしているのだから仕方ないだろう。

「……絶対、別れてなんかやらないからねェ〜」

ぎゅうと抱きしめて頭を撫でていると少し落ち着きを取り戻したボルサリーノがぽつりとそう呟いた。
それはもう、こちらこそ。


ちなみにその後別れると言っただけでここまで傷つくならなんで毎年あんな嘘をと首を傾げていると「そうでもしなきゃ好きだって言ってくんねェからだろォ……!」とキレながらデレられた。
これからはもっと愛情を言葉にしていこうと思う。