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キャンディ、クッキー、マフィンにケーキ。
少し席を離した隙にグレードを増しつつ置かれていく菓子はどれもこれも昨日喧嘩した恋人の好物である果物を使ったものばかりで、悪かったと思う気持ちがあるのなら直接謝罪するか、せめておれの好物を用意してこいよとため息を吐く。
普段はいっそ軽いくらい簡単に謝罪を口にするくせに、おれが本気で怒ったあとのボルサリーノときたら途端に口が重くなるのだから困りものだ。
ああ見えて臆病というか、妙にネガティブなところがあるのでもし謝って許されなかったらとでも考えて及び腰になっているのだろう。
それはわかる。
わかるが、しかしせっかくこちらが努力して翌日に怒りを持ち越さないようにしていても欲しくもない菓子で機嫌をとりながら逃げ隠れされるのでは許してやるタイミングがないではないか。
ーーいや、これでもおれに会うことに怯えて避け続ける以外にアクションがなかった昔に比べればマシになったほうなのだが。
あのときはもう、本気で別れるつもりかと思ったからなァと十数年前にあった破局危機を思い返しておれはふと笑みを漏らした。
そういえばあのときの喧嘩も『悪戯か菓子か』を選ばされるこの時期だったのを思い出したのだ。
笑いながら、湯気を立てているマグカップを二つ机に並べ、かわりに電伝虫を手に取ってコールする。

いち、に。


「……よお、ボルサリーノ。なんでだかは知らんがお前の好きな菓子ばかり大量に手に入ったんだ。コーヒー淹れたから休憩がてらちょっと抜けてこいよ」

珍しく早く受話器が上がり、かと思えば眉を八の字にしたまま何も言わない電伝虫にやれやれと肩を竦めてどうせ仕事なんて手についていないだろう上官にさぼりの提案をする。
そして「そういえば今日はハロウィンだが」という前置きのあと「菓子はもういらないから悪戯のほうを寄越せ」とわざとらしいくらいに低く甘い声で続ければ中庭を挟んだ大将の執務室から謎の発光現象が起きた。
おそらく前回の喧嘩で仲直りしたときのことを思い出したのだろう。
前回はなかなか過激だったが、さて、今回のハロウィンの『悪戯』はどんなふうになるのやら。
まだ点滅の収まらない部屋を眺め、おれはくつりと喉を鳴らしたのだった。