自分の気持ちに気づいた瞬間墓まで持って行くと決めた十年来の恋心を寝ぼけてぽろっと口にしたばかりか、夢見心地のまま抱きついてキスまでした。 正気に戻ったのは柔らかい唇の感触をしっかりと味わった後のことだ。 いつも眠そうな目が呆気にとられたように見開かれているのを見て、おれは全身から血の気が引くのを感じた。 *** くそったれ、と内心で罵声を吐きながら土地勘もクソもない島の中をやたらめったら駆け回る。 モビーを飛び出してかれこれ二時間は経っただろうか。 目が覚めてすぐの運動にしてはなかなかハードだしそろそろ止まって息を整えたいのだが森に入ってもなお器用かつ執拗に追ってくる羽音がそれを許さない。 苔の生えた岩を蹴り、樹々の合間を縫い、走って、走って。 そういえば神秘的な蒼い炎を纏って空を飛ぶ不死鳥でも地面に落とす影は普通に黒いんだなとあたりまえなことを考えたところで、背後からガツリと右肩あたりに衝撃を受けた。 ついにおれに追いつき上空から飛来したマルコが蹴りを入れてきたのだ。 勢いよく倒れたところを凶器じみた鉤爪で鷲掴みにされ身動きが取れなくなる。 ちくしょう、思いっきり体重乗せやがって。 爪が食い込んでイテェ。 「ッ、なにしやがるマルコォ!」 「テメェが、逃げるからだろうがよい!」 全速力で逃げるおれを追ってきたマルコもそれなりに疲弊しているようで、お互い荒くなった息の合間に怒鳴りあう。 逃げたから追うってなんだ。 お前は野生動物か。 そう思って地べたにうつ伏せで押さえつけられたまま首を捻って睨みつけるとなんだか思っていたのと違う、切羽詰まったような、泣き出しそうな顔のマルコと目が合った。 動揺にぐ、と喉が詰まる。 「……なんで、逃げるんだよい」 「なんでって……そりゃあ、まあ、いろいろと」 「いろいろってなんだよい」 羞恥だとか罪悪感だとか恐怖心だとか、説明するには情けない『いろいろ』におれが口ごもるとマルコはチッと舌打ちをして鷲掴みにしていた肩を蹴り上げた。 鈍い痛みに呻く間も無く今度は仰向けになったおれに馬乗りになるマルコ。 そうして、何発くらい殴られるんだろうと諦めに近い覚悟を持って目を強く閉じたおれの唇に、むにりと柔らかいものが押し当てられた。 「…………え?」 ゆっくり瞼を開き、ぽかんとしておれの上に乗っかっているマルコを凝視する。 かち合った視線は逸らされない。 お互い時が止まったように沈黙したまま、しかし確実に時は流れて数秒後、真剣な表情でおれを見下ろしていたマルコの顔が決壊したようにぶわりと赤く色づいた。 「え、はっ……な、マルコ!?」 弾かれたように飛びのいて素早く不死鳥に姿を変えたマルコにおれも慌てて上半身を起こすが間に合わない。 蒼い炎が掴もうとした手をすり抜け、宙を舞う。 おれを追っていたときとは違いさっさと森を抜けて大空へ逃げ出したマルコを捕まえるすべはない。 みるみるうちに小さくなっていく蒼にぶるぶると身体が震えた。 わざわざ追いかけてきたくせに。 あんな顔して、キスまでしたくせに。 「ーー……、んで逃げるんだよ馬鹿マルコ!!!」 誰かが聞けばお前が言うなと呆れただろうセリフを吐き、痛む肩を押さえながら立ち上がって地面を蹴る。 追いかけっこはまだまだ終わりそうにない。 |