おれはおれの恋人に好かれていない。 男同士で何言ってんの、と迷惑そうな顔をするのを半ば泣き落としで付き合ってもらったという経緯があるため当然といえば当然だ。 デートに誘ったりキスしたりも全部おれからで、好きでやっていることだから不満はないが自責はあった。 クザンにその気はないのに無理矢理付き合わせてクザンが本来得るはずだった幸せを奪って、本当にこれでいいのかという自責。 だから、クザンと付き合って初めての夏、隣から流れてくるひんやりとした冷気にいい加減潮時なんだろうと思った。 他のやつらに聞いてみても感じられないという冷気は、つまりおれに対する拒絶なのだろうと。 「なあクザン、最近さァ、嫌なことでもあった?」 「……特になんもねェけど」 目を瞬かせて「なんで?」と問うてくるクザンにそっと手を伸ばすとギョッとしたように身を引かれた。 いつものことだ。 いつもならここで強引に抱き寄せてキスするのだが、今回は指先をかすめる冷気に苦笑して手を引っ込める。 「最近ずっとヒエヒエしてるだろ?機嫌悪いのかなァと思って」 「……いや、それはお前が」 「おれが?」 「……お前、が、その、言ってたから」 お前といるのが嫌なんだよと引導を渡しやすくなるように話を振ったのにクザンの口からはなかなか本題が出てこない。 それどころかなんだか思っていたのと違う言葉が出てきて、どういうことかと眉を寄せた。 「おれがクザンに何か言った?」 「おれにっつーか……、暑いから近づくなって言ってたでしょうや」 この間あいつといたときに、と同期の名前を出されてまあ確かにそんなことを言った記憶はあるなと何度か頷く。 暑いのは嫌いだし、クザンにはよく距離が近いと言われるがそもそも好きでもない男と無駄に距離を詰める趣味はない。 そこまで考えて「んん?」と違和感に首を捻るとクザンが慌てたように「別にお前のためってわけじゃねェぞ」と付け加えた。 やけに血色のいい顔とぶわっと強くなった冷気。 おれが「暑いから近づくな」と言っていたのを聞いてわざわざ能力を使っているのだとして、おれのためじゃなかったらじゃあ誰のためなんだよという意地の悪い質問はできなかった。 |