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先日寄港した島の風習によると今日は『父の日』なる特別な日だそうで、日頃の感謝をこめて贈り物を渡すのだという島民の話に船長であるエドワード・ニューゲートをオヤジと呼び慕っている白ひげ海賊団の面々は大いに色めき立った。
これが去年だったならおれもきっと他の家族たちと同じように何も考えず騒ぎに参加できただろう。
けれど、今は違う。
みんなが寝静まった静かな夜に二人で酒を酌み交わすうち段々といい雰囲気になり、ぐっと背伸びをして胡座をかいているオヤジにキスしたのが三ヶ月前。
そう、おれとオヤジは今やただの家族ではなくれっきとした恋人同士なのである。
関係が変わってもオヤジのことは変わらず尊敬する父だと思っているし感謝だって当然しているが、しかし、だからといって恋人に父の日のプレゼントを渡すというのはどうなのだろう。
おれはいいとしてもオヤジは嫌な思いをするんじゃないか。
そんなふうに悩みに悩んで唯一事情を話してある家族に相談したところ「オヤジがそんなことで腹立てたりするか」と呆れた顔で一蹴され、そのまま引きずられるようにして島中を回って上等な酒を選んできたものの、残念ながらおれの心配は杞憂で終わってはくれなかった。
仰ぎ見るオヤジは絵に描いたようなへの字口で、もしこの場に兄弟のうちの誰かがいたらその誰かはきっと目を剥いて驚いたに違いない。

「いつもありがとうな、オヤジ」
「…………おう」
「あと、これも」

明らかに渋々といった様子で大樽を受け取ったオヤジに苦笑しつつ「こっちは『オヤジ』じゃなくて『ニューゲート』に」と追加で酒瓶を差し出した。
こんなこともあろうかと父の日のプレゼントとは別に用意しておいたのだ。
中身の酒自体そこまで度数が高いわけでもなく、更にはいくら探しても普通のサイズのものしか見つからなかったため酒豪であるオヤジの酔いの足しにはならないだろうが、今この場においては中身以上の価値がある洒落た字体の小さなラベルにむくれた顔がほんのり色づいたのを見ておれは自身の選択に間違いがなかったことを確信した。
ラベルに記されている名はサンタムール。
聖なる愛、なんて気障ったらしい名前の酒一本で強くて格好良くて頼りになる『オヤジ』が喜ぶなど、家族の誰も考えやしないだろう。

「愛してるよ、ニューゲート」
「…………おう」

小さく返してぐっと身を屈めおれの肩にぐりぐりと大きな頭をすり寄せてきた『ニューゲート』は、恋人には案外心の狭い、甘えたがりの可愛い男なのである。