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嫌われているというほどの積極さは感じられず、どちらかといえば無価値なものを見るようなーーもっとはっきりと言うなら、見下した目を向けられていた。
あまり話をする機会がないからまだなにも言われていないが、もし十分も会話を続ければあの間延びした口調で「馬鹿だねェ〜」とばっさり切り捨てられそうだ。
そう思っていたおれが実際に面と向かって「馬鹿だねェ〜」と言われたのはそのひと月ほど後、ずっと片思いしていた女と親友の恋をおせっかいにも後押しし、成就させてしまったときだった。
自分でやったこととはいえすっかり落ち込んでしまい、今日は一人で自棄酒でも飲んで泣こうと思っていたら出会い頭で唐突に罵倒されたのである。
間違いなく泣きたい気分だったのに、以前脳内で再現していた通りのセリフを寸分たがわず現実で吐かれ、「好きだったんだろォ〜?」と呆れたように眉を寄せる男が意外とおれのことをよく見ていたんだなと思うとなぜだか笑いがこみ上げてきた。
「よーしボルサリーノ、飲みに行こうぜ!奢るから!」
「オー……なんで今の流れでそうなるんだろうねェ〜」
湿っぽい酒はやだよォ、と眉を寄せて、それでもなんだかんだ明け方まで付き合ってくれたボルサリーノと二人揃って遅刻したのが新兵のころ。
それからトントン拍子で昇進を重ねたボルサリーノに「おめェみてェなお人好しは放っておくとすぐ使い潰されちまうからねェ〜」と副官として引き抜かれ、次期大将なんて言われるようになった頃には「変な女に引っかかられるくらいならわっしが貰っといてやるよォ〜」という謎の上から目線で交際が始まって。

「なんていうか、お前、案外おれのこと好きだよなァ」

ぽつりと呟いた言葉に傍のボルサリーノが変な顔をした。
何かを失敗したような、それがどうしたと開き直るような、けれどどうにも開き直りきれないような微妙な表情だ。

「……今更気づくなんて、本当に馬鹿だねェ〜」

結局投げやりな態度で口にした言葉は普段からつんけんしているボルサリーノにしては珍しく甘いもので、けれどやっぱり言われた馬鹿の一言に笑いながら意趣返しを考える。
上官命令で仕方なく付き合っていると思われているらしいおれが実は交際を始めるよりずっと前からボルサリーノに惚れていたのだと教えてやったら、この不器用な男はまたおれのことを「馬鹿」と罵るのだろうか。
もしかしたら泣くかもしれないし、笑うかもしれない。
それはとても幸せな想像だった。