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アルバはただの街のチンピラだった。
大きな街特有の汚い部分を食い物にしてのさばる小悪党だ。
下手な賞金稼ぎよりか腕はたつと自負しているけれどその強さはたかが知れているし、ついでに言えば料理が上手いわけでもない。
そんなアルバがなぜ天下の白ひげ海賊団の、それも料理に携わる者ばかりが集まる4番隊に所属しているのかといえば、それは数年前のある雨の日、路地裏で酔いつぶれていた哀れな男を気まぐれに拾ったせいだった。
普段なら一瞥するだけで無視を決め込んだに違いないアルコール漬けの濡れ鼠をわざわざボロ家に連れ帰って介抱してやった理由は憶えていないがあの時はアルバもいくらか酒を引っ掛けた後だったはずであり、つまるところ、きっと機嫌が良かったのだろう。
びしょ濡れの体を拭いてやっているうちに目は覚ましたものの肝心の酔いが全く抜けておらずぐずぐずと泣きながらネガティブな言葉を垂れ流す男を蹴り出すこともなく「美味いもの食って寝りゃァ全部忘れて元気になるさ」と飯まで作ってやったのだから相当である。
とはいえただのチンピラであるアルバが作れるものなど精々が安物の肉と野菜に適当に味をつけて炒めただけの料理ともいえない一品で、けれどそんな美味いとは到底言い難い炒め物を口に運んだ男は「ん゛ま゛い゛」と余計涙を流しながら皿に盛られたそれをしっかりと完食した。
そんなこんなでいっそう上機嫌になったアルバに湿った長い髪をわしゃわしゃかきまぜられながら心ゆくまで号泣し、最終的に友人でもなんでもない野郎の腕に抱かれてこてりと眠りについた泣上戸な男こそ白ひげ海賊団4番隊隊長のサッチだったのだ。
翌朝アルバが起きた時には謝罪と礼がかかれたメモを残していなくなっていたのだが、三日後、崩れていた髪をトレードマークのリーゼントに直して再度姿を現したときには思わず三度見してしまった。
あのときの酔っ払いが手配書で何度もお目にかかっていた賞金首だなんて思いもしなかったのだからしかたない。
髪型一つでああも印象が変わる男は広い海にもそうそういないだろう。

「おれはコックだからよ、誰かが自分のために作ってくれたメシなんてそれだけでご馳走みてェなものなんだ。お前のメシは本当にうまかった。

ーーだから置いてく気にはなれねェ。悪いな」


言葉とは裏腹に悪びれない様子で拉致という犯罪を働かれたあの日から数年が経った今でもサッチがアルバを手放そうとする気配はない。
無理やり結ばれた縁ではあるが、他の人間に食事を振舞おうとしただけで途端に普段の快活さがなりを潜めるサッチの執着を悪くないと思い始めているのは、今はまだアルバだけの秘密だ。