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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「アルバ!!アルバ!!!」

地を揺るがすような大声にビリビリと空気が震え、それに驚いた鳥たちが我先にと大空へ飛び立っていった。
いつもならまだいびきをかいて眠っているはずの時間なのだが、どうやら今日は随分と早いお目覚めだったらしい。
川で丸洗いしたばかりの身体を小さく破いてもらったーーといっても巨人基準での『小さく』なので一般人のおれからすれば普通にバスタオルほどの大きさがある布で拭い、畳んでおいた服を手早く身につける。
起きる前に戻れると思ったんだけどなァとため息をついて適当な岩の上によじのぼり「こっちですよ」と声をあげながら両腕を大きく振れば、十数本の木を挟んだところでおれを探していたハイルディンさんはカッと目を見開いて早足でこちらにむかってきた。
巨人族の場合普通に歩いただけでもそうなのだが、小走りともなるとその移動に際して起こる揺れはちょっとした地震並みだ。
そんな加減の利かない体で、しかしおれに手を伸ばして掬い上げるときばかりは呆れるくらい慎重な動きをするのだからハイルディンさんの過保護っぷりは半端ではない。
さしたる賞金もかけられていない三下の海賊から奴隷のような扱いを受け逃げ出すために一か八かで海に身を投げた遭難者など彼の常識では考えられないくらいに非力な存在なのかもしれないが、体を洗ったり用を足しに行くたびにこんなふうに取り乱されてはこちらが情けなくなってしまう。

「アルバ…!地上は危険だからおれの傍から離れるなと言っただろう!?」

泥でできた人形でも扱うようにそっとおれを持ち上げたハイルディンさんに口だけは素直にごめんなさいと返してのそのそとごわついた髪をよじ登る。
兜の飾り部分に紛れるようにしてこっそり取り付けられている座椅子はおれが一人で行動しようとするたびに改良が重ねられ今ではそんじょそこらの王座よりよほど座り心地がいいのではないかと思う出来に仕上がってしまっているが、座り心地がよければそこから降りなくなるわけではないと何度訴えればわかってくれるのやら。

「ねえハイルディンさん、おれは確かに弱いけど、これでも一応大人だから少し一人になったくらいで簡単に死んだりしませんよ」
「……馬鹿を言うな。二十そこらなんてまだまだ子供だ」
「いや、長命な巨人族ならそうかもしれませんけど人間的には二十は大人なんですって」
「そういうことは熊くらい倒せるようになってから言え」
「挑戦しようとしたらハイルディンさん危ないって怒るじゃないですか……」

もう数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど繰り返したやりとりにはぁと息を吐くとおれを頭に乗せたハイルディンさんは少し気圧されたように身を強張らせて押し黙った。
こういうときせめて同じくらいの大きさがあれば押し倒して喰っておれがいかに大人であるかを証明できるのに実際にはキスすらままならないというのだから、身長の差とはかくも非情なものである。