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「男を落とすには胃袋を掴むのがいいって聞くけどさァ、それって本当に正しいのかな。例えばおれは言うことを聞かないと二度とメシ食わせてやらないって脅されたら抱かれる側に回ることも辞さない程度にはサッチに胃袋を掴まれてるわけだけど、それと『サッチを愛してる』ってこととがイコールだとは思えないんだよね。『料理がおいしい好き』って『顔が整ってるから好き』と大差ないじゃん。もしくは『セックスの相性がいいから好き』とか?どっちにしろそれって愛じゃないよね?そんなことで落とされるって、相手に対しても失礼じゃない?」

ねえどう思うサッチとスプーンを咥えながら自論を垂れ流していたアルバが意見を求めてくるのに固まった頬を無理やり持ち上げる。
失意のどん底にあっても無視できないのは惚れた弱みのせいだ。
アルバの言葉がぐるぐると頭を巡って、いつもの軽口を紡ごうとする口が重い。

「……そりゃァ、お前、美人でメシの美味い嫁さんと美人だけどメシがまずい嫁さんならどっちがいいかって話だよ」
「料理が下手とダメなの?」
「別に駄目じゃねェが、まあ、うまいに越したことはねェだろ」

言いながら、美人なら料理くらい下手でも気にしない奴は沢山いるんだろうなと考えてどれほどメシが美味くても愛してはもらえないらしい自分が酷く惨めになった。
突然こんな話題をふってくるなんて、自分の気持ちがバレたとしか思えない。
バレたうえで、あの言い様。
どうしようもない気分だ。
別に、胃袋を掴んでやろうなんて大それたことを考えていたわけではない。
ただいつもおいしそうに自分の作った料理を平らげるアルバが好きで、好きになってほしくて、けれど同性である男相手に誇れるものなど料理の腕くらいしかないから、せめてまた食べたいと思ってもらえるようにと。
アルバの言葉に自分のなけなしの努力を全否定されたような気がして目の奥が熱くなり、咄嗟に強張った笑みのまま顔を伏せる。
ツンと痛む鼻を誤魔化すように裾で拭うと納得したのかしていないのかもぐもぐ咀嚼を続けていたアルバが今にも泣き出しそうな顔のサッチを見て困ったように眉を下げた。

「そんな顔しないでよ。おれはサッチに胃袋掴まれてるけど食べ物につられたわけじゃないって話をしてるんだから」

美人じゃなくても万が一メシが作れなくなってもおれはサッチが好きだから、嫁にするならサッチがいい。
そこまで言って「これプロポーズね」と付け足したアルバの耳は微かに赤くて、あまりのことに目眩がした。

「…………」
「サッチ?」
「………………メシが作れなくなるとか、縁起のわりィこと言ってんじゃねェ」

なんの答えにもなっていないはずのサッチの返事にアルバが「ごめんね」と謝って幸せそうに笑う。
きっと自分は今、とてつもなくひどい顔をしているに違いない。