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「#幼馴染」のBL小説を読む
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たまたまふらっと流れ着いてそのまま居座っているだけの善良な市民であるおれがダダン一家を『うち』と表現していいのかは微妙なところだが、暫定、『うち』には一匹のかわいい猫がいる。
猫、もといエースはどういう経緯かコルボ山を根城にしている山賊ダダン一家で育てられている謎の悪ガキだ。
最初はダダンさんの子かとも思ったのだが一向に名前を教えてくれなかったエースに「カーリーくん?」とダダンさんの名字で呼んだら「おれはポートガス・エースだ…!」とやたらめったらキレられたので多分違うんだろう。
ポートガスが父方、つまりダダンさんの旦那の姓って可能性もあるにはあるけど、そもそも全然似てないしな、ダダンさんとエース。
もし血が繋がっててあれだけ濃いダダンさんの要素がカケラもないのならそれはもはや一種の奇跡だ。
ダダンさんもあれで昔はなかなかの美人だったらしいが、まあその話は置いておこう。
いま考えるべきは時の流れの残酷さについてではなく全然おれに懐かないーー懐いていないはずだったエース少年についてである。
青は藍より出でてというのはおそらくいい方向に使う言葉なのだろうがあえてそれに当てはめるとエースは山賊に育てられて山賊より気性が荒い。
元来の性格にアウトローなコミュニティで育ったがゆえの躊躇いのなさが拍車をかけているのだろう。
ダダン一家が揃って匙を投げる気性の荒さはまるっきり人馴れしていない野良猫のようで、もちろんその獰猛とも言える気性はおれに対しても遺憾無く発揮されているのだが、しかしまだまだ子供であるエース程度なら軽く制圧できるだけの力を持っているおれからすれば必死の反抗も無力な子猫の威嚇でしかない。
敵わないのだから逃げればいいのに毎度律儀にかかってきてはカウンターで抱え込まれ、少ない語彙で罵詈雑言を吐きながらなすすべもなく撫でくりまわされて、最終的に怒りや羞恥がふりきれるのか顔を真っ赤にして涙目でぐずぐずとぐずりだすエースは本当にかわいかった。
細い手足をばたつかせてやめろやめろと喚き散らすエースが暴れ疲れてくったりし儘ならない現実にしくしくと泣き出すまで延々といい子いい子をしてやるのはおれの日課であり生き甲斐だ。
そういう意味では間違いなく、おれにとってエースは特別な存在である。
だが、しかし、正直こういう展開は考えていなかったというか、まさかというかなんというか。

「アルバ、アルバはイイヒトとかコイビトとか、そういうのはいないのか?」
「……あー、うーん……どうだろうなァ……」
「いないんだな?じゃあどんなやつが好きなんだ?」
「うーん……」

最近顔なじみになった第二の悪ガキ、サボが探るというのもおこがましくなるほどの直球でおれの恋愛事情を尋ねてくるのを、遠くの物陰からそわそわとした落ちない様子で窺っているエース。
ばちりと目が合えば途端に火がついたみたいに赤くなり、ダッと走り去っていく小さな背中に唖然とした。
基本そういったことに無頓着なたちとはいえここまで露骨、いや、本人は隠しているつもりなのかもしれないが、バレバレの好意を見逃せるほど鈍感にはできていない。
お前おれのこと嫌ってたんじゃなかったっけと頭の中で野良猫だったはずのエースに問いかけつつ、どうしたものかとぬるい温度の溜息を吐いた。