*ヤンデレ 「どうしたドレーク、何かいいことでもあったか?」 淹れたてのコーヒーを口にしてふっと微笑んだ恋人に問いかけると「海軍にいた頃と同じ味だと思ってな」という今更な答えが返ってきた。 海軍のときも海賊になってからもドレークのコーヒーを淹れるのは部下兼恋人であるおれの役目で、淹れる人間も豆の種類も変わっていないのだから味が変わらないのは当然のことだ。 しかしまあドレークが言いたいのはそういうことではないのだろう。 そう思いながら自身も一口コーヒーを啜ると、案の定幸せそうな雰囲気のドレークが言葉の続きを語り出した。 ふわりふわりと、湯気と共に空気が揺れる。 「海賊になったら、もうこのコーヒーは飲めなくなるものだと思っていた」 だからこうして変わらず味わうことができて嬉しい。 なにも聞かずついてきてくれてありがとう、アルバ。 海とコーヒーの香りに包まれながら静かに、穏やかに言葉を紡ぐドレークに「そう言ってもらえるならおれも嬉しいよ」と返し、おれはマグカップを引っ掛けている右手に目を落とした。 あのとき、ドレークに海賊になると打ち明けられたとき、ほんの少しでも選択肢を間違えていればこんな穏やかな今はなかったのだろう。 それを考えると幸せもひとしおである。 おれのコーヒーを飲めなくなると思っていた、というドレークの言葉が『恋人と道を違える覚悟をしていた』という意味でないことをおれは知っている。 海賊になると決めたとき、最初からおれを置いていくつもりなど微塵もなかったというのは海軍に反旗を翻して海に出たその夜、酒に酔ったドレーク本人から聞いた話だ。 もし共に来ることを拒否したら、四肢を斬り落としてでも連れて来るつもりだったというのも。 両手両足がなければ、そりゃあコーヒーだって淹れられやしないだろう。 ーー以前からちょくちょく片鱗は見て取れたが、今回の件で確定した。 おれの恋人は間違いなく病んでいる。 それもかなりヤバい方向に。 「……にしても、芋虫にされかけてもまだ可愛く思えるって、愛だよなァ」 「アルバ、何か言ったか?」 「いいや、お前のこと好きだなァって再確認してただけ」 本部の休憩室からちょろまかしてきたあられを照れて赤くなっているドレークの口に突っ込み、コーヒーとしょうゆ味のコラボレーションで刻まれた眉間のシワに唇を寄せる。 物騒な手段なんてとらずともおれがドレークから離れることなどないのだから、どうかこのまま、大人しく愛されていてほしいものだ。 |