「なんじゃァ?」 「どうしたサカズキ……って、なんだそれ、風船か?」 突然立ち止まったサカズキを振り返った瞬間おれは咄嗟に笑いそうになるのを堪え、サカズキの手に掴まれたファンシーなピンク色のハートを指差した。 確か今日は広場の方で海軍が子供向けの広報イベントを開催しているはずだ。 そこで配った風船が飛ばされて空を漂ううち空気が抜けて降りてきたのだろうが、人ならそこら中に歩いているというのにピンポイントでサカズキの目の前にくるあたりなかなかツボというものを心得ている風船である。 「どうする?せっかくだし持って帰るか?」 「いらん」 「そう言うなよ、海軍主催のイベントのやつだろ?」 「いらんと言うとる」 「いいじゃないか、海軍大将とハートの風船。可愛いぞー」 「……そがァに捨てるのが惜しいなら、おどれが持っちょれ」 堪えるのをやめてニヤニヤ笑いながら子供が泣きだしそうな強面とハートの風船の組み合わせを揶揄うおれにいい加減イラっとしたらしいサカズキがピンクのハートをぐいと押し付けてきた。 想像通り少し空気の抜けた、柔らかいピンク色がおれの手の中で弾む。 「……」 「……おい」 「…………」 「……おい、何を惚けとるんじゃ」 別にそういう意図があるわけじゃないのはわかっているが、サカズキからハートを差し出されるという予期せぬシチュエーションに照れていると、おれのむず痒い心情を感じ取ったらしいサカズキがなんとも言えない顔で「バカタレが」と詰ってきた。 それがまた言葉に反して全然怒ってるように見えないものだから、ああもう、顔が熱い。 |