「寒い…」 「おどれはそれしか言えんのか」 一面の銀世界、背中を丸めてかじかんだ手を摩るおれにサカズキがフンと鼻を鳴らす。 ちっとも厚着していないくせ寒さなど微塵も感じていないといった様子のサカズキにムッとして「お前はいいよなマグマ人間だから」とお決まりの愚痴を吐きかけ、ギリギリのところでその言葉を飲み込んだ。 そんなことを言ったところで無視されて余計腹がたつのがオチだろう。 どうせ口にするなら、もっと生産性のある言葉にするべきだ。 「……あーあ、寒いなァ」 「またそれか」 「だって寒いだろ?」 「わしにゃァ縁のない感覚じゃ」 「サカズキ」 「なんじゃァ」 「好きだぞ」 数秒ほど考えてから決行に移したくだらないイタズラ。 寒い寒いと言いながら不意打ちのようにさらりと告げた瞬間、サカズキの周りの雪がジュワッと音を立てて蒸発した。 「ーー確かに、こんなに寒い日でもサカズキは随分暑そうだ」 想像以上に効果覿面だったことにしたり顔で笑えば湯気の向こうのサカズキが硬直から抜け出しわなわなと震えだす。 恥ずかしかったのか、怒ったのか、その両方か。 一気に上昇した周囲の気温にマグマの気配を感じとったおれは、けらけらと笑いながら溶けた雪の水溜りを駆け出したのだった。 |