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恋愛を経て結婚したからといって出会ったころのようなときめきがずっと続くわけではない。
それはおそらく男女の夫婦でも同じであり、おれが生涯を誓った相手であるボルサリーノに対して青臭い気持ちを持つことができなくなったのも別段おかしなことではないのだと思う。
愛しているかと問われれば答えは当然イエスだし他に気を向けるなどあり得ないと断言できるので倦怠期というよりは関係が熟しきった結果という感じか。
恋人ではなく家族という枠組みになったといえば簡単な話で、昔のような熱を感じられないのは少し寂しいけれどこの変化こそが正しい心の在り方なのだろう。

そう、思っていたのだが。

「………、」

どこへしまいこんだか忘れてしまったペーパーナイフを捜索するうちに戸棚の奥の方から出てきた、いかにも『宝箱』といった風体の箱。
開かれたその箱を前に数秒のあいだ固まっていたおれは、次いで口に手を当て、意味をなさない声を漏らしそうになる衝動をぐっと堪えた。
おれに見覚えがない以上ボルサリーノの私物であることは確実で、そう理解しつつプライバシーだ何だと考える間もなくひょいと蓋を開けてしまったのは間違いなく距離が近づきすぎた弊害である。
宝箱の中身は、紙だった。
大きさも種類もバラバラで、中にはなにかの切れ端のような小さな紙片も混じっている紙の山。
一見ただのゴミのようにも見えるそれを見た瞬間思わず動きを止めたのは、折り重なった紙の中にいくつか見覚えのある可愛らしい封筒が混じっていたからだ。
バナナのイラストが描かれたいかにも子供向けな黄色い封筒は、おれが若気の至りで上官に盾突いて支部に飛ばされたとき、当時親友だったボルサリーノへの近況報告に使っていたものだった。
まだ付き合ってもいなかった頃の、恋文でもなんでもない普通の手紙。
それが残っていることにまず驚き、まさかと思って一番上に置かれていた紙切れを手にとってまた絶句した。
床にでも落ちていればゴミ箱行きを免れないような少しよれた紙切れは、一週間ほど前、多忙ですれ違いが続いていたボルサリーノにおれが残した『明日の昼は一緒に食べよう』という走り書きのメッセージだったのだ。
デートの誘いなんて上等なものじゃない。
休み時間を合わせて食堂でランチをとるだけの軽い約束だったのに。

「宝箱に、しまってくれてるんだなァ」

メシくらい一人でゆっくり食べさせなよォ、と唇を少し尖らせて愚痴っていたボルサリーノを思い出し、我ながら読み辛い、ミミズが這ったような汚い字を指でなぞる。
素直でない男の秘密の宝物にじわりと目の裏が熱くなるのは年を食って涙腺が緩くなっているせいか。

「……ぼおっとしてる場合じゃないな。とりあえず、見たのがバレないようにもと通りにしておかないと」

あいつは昔から拗ねると長いからなァと独りごち、久々のくすぐったい気持ちに笑みを湛える。
失くしたと思っていたときめきだが案外近くに転がっているものだ。
探し物が終わったら茶でも淹れて、いずれこの宝箱にしまわれるであろうラブレターでも書いてみるとしよう。