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「今の生活がそんなに嫌だってんなら、海に出りゃァいいんだよい」

なんなら連れて行ってやろうかと口にして、マルコはすぐさま自身の軽率な発言を後悔した。
ログが溜まるまでとどまることになった平和な島。
その島のバーで出会ったアルバという男は見るからに平和ボケした、マルコや家族たちとは相容れない類の人間だった。
たまたま隣に座ったその日から毎日のように見ているが酒を飲んでは仕事の愚痴を零すだけで解決のための行動は起こそうとはしない、意気地なしの情けない男である。
連れて行ったところで役には立つとは思えないし、オヤジと慕う白ひげの前に出したところで一笑に付されるのがオチだろう。

ーーいや、しかし。
見立てでは身体能力自体は悪くないのだから、直々に鍛えてやれば案外強くなるのではないだろうか。
なにかと自由な連中が多い海賊団においては仕事の愚痴を吐きつつも手を抜いたり途中で投げ出すことはしない真面目な性格だって貴重で好ましいものだ。
実力さえあればあとはマルコの立ち回り次第でどうとでもなる。
アルバにその意思があるのなら、共に海を渡ることも、難しいとはいえ決して不可能な夢ではない。
ぐるぐると言い訳めいたことを考えながらこんな男一人になにをそこまで必死になっているのかと自分自身の思考に呆れ、平静を装いつつ反応を窺うとアルバはぽかんとした間抜けな顔でマルコのことを見つめていた。

「……おれが、マルコと?」

自分が聞いたことを確認するようにぽつりとつぶやいたアルバに「よい」とだけ返し、中身の減ったグラスを手持ち無沙汰にくるりと回す。
断られるだろうな、と思った。
半ば確信だ。
アルバはマルコを選ばない。
そんな諦観をもってアルコールを口に含んだのに飲み下そうとした瞬間酔いに赤らんだ顔の中でキラキラと瞳を輝かせたアルバが「そりゃあいい!」と力強い肯定を返してきたものだから、マルコはおかしなところへ入った酒に思い切り噎せてしまった。

「なにやってんだよマルコォ、酒の飲み方も知らないガキじゃあるまいし、情けねェぞォ!」
「ッせェよい!誰のせいで……クソッ!」

ゲホゲホ咳き込むマルコの背を叩きながら喧しく笑うアルバは先ほどの話を冗談だとでも思っているのだろう。
本気にしていないからこそあんな好意的な返事が出てきたのだ。
そうわかってはいても、心臓がバクバクとうるさく脈打つのを止められない。

「マルコについてったらさァ、酒飲んで寝て朝になってもマルコが隣にいるんだよなァ。夢みたいだよなァ」
「っ、ば、かやろうが……」

こちらの気も知らず次から次へと言質を寄越してはけらけらと笑う酔っ払いにマルコはカウンターに突っ伏して唸り声をあげた。
先ほど背中を叩いていたときには痛いくらいの力加減だったくせに、伏せた頭を撫でる手はやたらと優しいものだから腹がたってしかたない。
酔いが醒めても、もう、逃してやれる気はしなかった。