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「まったく、相手の反応を見極めもできないのに駆け引きなんて無駄なことをするんじゃない」

呆れ顔のレイさんに「それだからきみは子供だというんだ」とため息をつかれた瞬間ようやく自分の馬鹿げた勘違いに気が付いたおれは、あまりの恥ずかしさに今すぐにでもこの世界から消え去ってしまいたくなった。
ありとあらゆる方法を駆使して毎日のように好意を伝えても年上の余裕でいいようにあしらわれていたが、止めろとも言われなかったから脈がないわけではないのだと勝手に思い込んでいた。
だが、そうではなかったのだ。
止められなかったのは『子供』の戯言に目くじらを立てる必要はないと思われていたから。
つまりレイさんからすればおれは対等な存在ではなくて、端から相手にされていなかったという、ただそれだけの話。

「あ、の…………すみません、でした」
「なんだ、人のことを散々無視しておいてそんな謝罪一つで済ませる気かね?」
「はは……あー……今度、酒でも奢りますから、許してください」
「ふむ、それは楽しみだな。許すかどうかは別問題だが」

にやりとあくどい笑みを浮かべる男前なレイさんに滲み出る涙を悟られないよう、必死に引き攣った頬を持ち上げる。
いつもなら「ごめんねレイさん怒らないで」とハグの一つもかましていただろうが、もうそんな気安い態度はとれそうになかった。
レイさんはよく自分のことを年寄りだなんだと揶揄するが、決してただ年を食っているというわけではない、酸いも甘いも噛み分けたような色男だ。
そんな相手に『押して駄目なら引いてみろ』などというわかりやすい手を使った挙句、看破されて呆れられるなんて我ながら馬鹿過ぎて死にたくなる。

それでも。
それでも、おれは。

「……レイさん、好きです」
「今度はまたえらく直球じゃないか。まあ、子供のうちはそのくらい素直でいる方がいい」

ひねた恋愛は大人の特権だとレイさんが笑う。
本当に好きだったんですとは、最後まで言えなかった。