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ドンキホーテ・ドフラミンゴは大抵の人間に対して冷淡かつ酷薄である反面、自身の『お気に入り』に対しては並々ならない愛情と執着心を持つ男だ。
なんの因果かその『お気に入り』になってしまったおれは、つい先日までドフラミンゴの恋人としてドレスローザの王宮に軟禁されていた。
ちなみに恋人といっても愛を育んで告白して、なんてまどろっこしい真似は一切なかった。
何度かおれの店を冷やかしに来て、たまに酒場で一緒に飲んで、そうしたらある日突然一方的に宣言、軟禁されたのだ。
普通なら絶対にお断りだろう。
そんな始まりだったにもかかわらず一年近くのあいだ歪な恋人関係を続けてきたのは、最初「おれに見染められたのだから喜んで当然」と言わんばかりだったドフラミンゴがおれの拒絶を前に迷子の子供のような顔をしてたじろいだからだった。
一言で言えば、絆されたのである。
なんだか色々と馬鹿らしくなって反抗しなくなったおれを、ドフラミンゴはそれでも一度拒絶した以上はいつか不満を爆発させるのではないかと疑っていたようで、おれの部屋で猫のように微睡む日々のなかでも牽制するように自身の持つ圧倒的な力を話して聞かせたり機嫌をとるようにプレゼントを贈ったりするのを欠かさなかった。
おれもおれで絆されただけだったのに情が生まれ、何かにつけて可愛いやつだと感じたりして、ドフラミンゴが不安がるたびに愛を囁いたり甘やかしたりと普通の恋人らしい行動で気持ちを伝えていたのに、そこまで執着をあらわにしていた相手がいきなり態度を変えるなんていったい誰が思うだろうか。
突然、本当に突然「お前の好きにするといい」と突き放すように笑ってちょっと引くくらいの額の金と一緒におれを王宮から放り出したドフラミンゴに怒るより先に本気で呆れ返ってしまった。
横暴もここまでくると清々しいほどだと。
そうして手切れ金であろうベリーが詰まった鞄を抱えたおれは始まりと同じく一方的に過去になった男への想いに終止符をつけるべく娼館に向かい、扉をくぐった瞬間殺気に満ちたドフラミンゴに拉致され、現在は住み慣れた王宮の一室に監禁されている。
軟禁ではなく監禁だ。
警戒の度合いがランクアップしやがった。
わけがわからないと思ったが、怒り狂うドフラミンゴの言葉を要約すると突き放したのはドフラミンゴなりの愛情確認のようなもので、おれはその確認の最中に見事最悪の行動をとってしまったということらしい。
石橋を叩いて壊すとは正にこのことだろう。
「好きにするといい」が「自分の意思でおれの傍にいたいと示せ」という意味だなんて、そんなもの言わなきゃわかるはずがないだろうに。

「フフッ……フッフッフ!まさかとは思ってたが……まさか!本当に王宮から一直線に娼館に向かうとはなァ!」

耳障りな笑い声をあげながらぽろぽろと涙をこぼし、やっぱり信じなくて正解だったと部屋の周りに糸を張り巡らせるドフラミンゴはどうやらおれを徹底的に閉じ込めるつもりのようだ。
別にドフラミンゴが誤解するように開放されたと思って揚々と女を抱きに行ったわけではないのだがどうせ言っても聞きゃしないし、これでもう二度とおれを離そうとしないと思えば誤解されたままでも構わないかと息を吐く。
面倒な男だ。
まあ、そこがまた可愛いのだが。